精神障害の再燃にて精神科病院へ入院治療を必要とした症例の治療過程に生じた問題への対処を契機に, 愛知県下における維持透析患者で入院を要すると考えられた精神障害患者の受け入れ, 治療実態に関するアンケート調査を実施した. ここに報告する.
症例は50歳, 男性, 透析歴12年の維持透析患者で, 非定型精神病の再燃にて入院を必要とした. 透析可能な精神科病棟を有する総合病院への転院ができず, やむを得ず精神科単科病院に入院した. 当院の職員2名で送迎を行い, 通院透析を行った. 透析中は専任ナースを配置するなどの工夫を行った. 幸い非定型精神病は治まり, 約3か月後に退院した.
この症例のような入院治療を要すると考えられる精神症状を有した透析患者の実態を調査するために, 愛知県下の透析施設に同様な経験の有無と入院の有無, 転院時に生じた問題, および, 具体的対処に関するアンケート調査を行った. アンケートは愛知県内の111施設に郵送で行い, 72施設 (65%) より回答を得た. 4,418名中62名 (1.4%) の精神障害者が存在した. 透析患者に認められた精神科病名は, 躁うつ病 (24名), 分裂病 (14名) が多く, 次いで老人性痴呆であった. 年齢と疾患の関係では, 精神障害合併患者は50歳代に最も多く, その殆どが躁うつ病と分裂病であった.
精神障害を有する患者62名のうち入院適応と診断された患者は20名で32%に相当した. 要入院の20名中17名 (85%) は入院可能であった. その治療形態は, 精神科病棟に入院し治療が行われたのは17名中11名 (65%) であり, 入院中の同一施設内での透析が可能だったのは, 11名中5名のみであった. 残りの6名は他施設にて透析を行っていた. 精神科病棟に入院できなかった6名の患者は透析可能な一般病棟へ入院治療を行った. 向精神薬の投与は維持されたが, 一般病棟であるため, 夜間の不穏やせん妄に対する緊急処置や行動管理の面での問題が指摘された. 入院治療が必要とされた20名中15名 (75%) の殆どの症例で, 入院待ち期間が, 非常に長かった. 入院となっても手続きや2施設間の搬送に伴う責任の所在など, いくつかの障壁が指摘された. 同一施設内での総合治療が望まれるが, 現実には総合病院で精神科病床を有するところは極めて少なく, 受け入れも困難であることがわかった.
今後, 広域での透析施設間の情報交換や, 精神科との連携診療を密にすることが必要と思われた.
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