1 はじめに「火の見やぐら」は,江戸時代には番人が24時間監視し,地域の火事をいち早く発見し半鐘を鳴らすことで,迅速な消火と周辺住民の避難に活用されていた.その後も消防署や消防団の倉庫の近くなどに整備され,現在でも地方では鉄塔のやぐらが残っていることが多い.しかし,119番通報システムや電話が普及したことやサイレンや防災行政無線が整備されてきたことで,実態としては使用されていないものが多いと思われる.
2012年春に東日本大震災の被災地の調査を回転翼タイプの小型UAVであるマルチコプターで行っていたところ,仲間を亡くされた消防団の方から「被災時にこのような無人ヘリがあれば,被災状況の把握や生存者の発見に役立ったかもしれない」,「まちが復興していく様子を空撮し発信したい」とのご意見を頂いた.その際,小型UAVを上手に活用すれば,防災や減災に役立つ「現代版火の見やぐら」を実現できるのではないかと着想した.
本研究では,近年,技術革新が著しいUAV (無人航空機)やUAS(無人航空機システム)を用いて,地域の防災力向上や発災初期の迅速かつ正確な状況把握に資する「現代版火の見やぐら」の社会実装の可能性を展望すると共に,その課題を整理することを目的とする.
2 「現代版火の見やぐら」の概要社会実装を想定している小型UAVによる「現代版火の見やぐら」は,次に示す4点の機能を有する.
(1) 発災時に自動離陸し,周辺の状況を空撮できること
(2) 空撮した画像または動画を周辺にいる人の携帯電話に自動配信する機能を有すること
(3) 空撮後は自動着陸し,その後は,定期的に状況確認の自動離発着を繰り返すか,手動での捜索・状況把握のフライトを行えること
(4) 平常時は,手動でのフライト訓練やお祭りなど地域のイベントの空撮に活用できること
これらの機能を全て有するシステムは,筆者が知る限り存在しないが,現在ある技術を組み合わせることで十分に実現可能なシステムである.
3 「現代版火の見やぐら」の社会実装筆者も一部お手伝いをさせて頂いている宮城県岩沼市の防災集団移転地「玉浦西地区」において,小型UAVによる「現代版火の見やぐら」を社会実装するべく,2012年秋には,地元の
ロータリークラブ
へ小型UAVを寄贈するように働きかけるだけでなく,操縦者の訓練に協力するなどしてきた.また,小型UAVの設計・製作を行う会社や大手通信会社の協力を得て,自動離発着による空撮やデータの配信方法などについての検討を進め,2015年7月19日の「玉浦西」のまち開きに合わせて,そのプロトタイプのシステムをお披露目できるように準備を進めてきた.
しかしながら,2015年4月に小型UAVを首相官邸に墜落させる事件が起こり,小型UAVを巡る社会環境は激変し,被災地最速で進む防災集団移転の移転先でのお披露目という目標は,延期せざるを得なくなった.
また,小型UAVの飛行を制限する議員立法での小型無人機の飛行規制法案の制定や航空法の改正なども予定されており,「現代版火の見やぐら」の実現のためには,新たにクリアしないといけない課題も出てきた.
当日の発表では,法改正や関連技術の最新動向も踏まえた上で,小型UAVによる「現代版火の見やぐら」実現に向けた現状と課題について報告し,小型UAVを活用した防災・減災に資するシステム開発の方向性について議論したいと考えている.
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