【目的】近年、患者・利用者中心主義に基づくサービス提供の重要性が高まっている。地域・在宅において患者・利用者がより自立ある生活を営むためには、さらなる訪問リハ・サービスの普及が望まれている。しかし、他の居宅サービスに比してその利用率は低い。その原因を明らかにする上で、訪問リハ・サービス利用者の生活実態を把握する必要がある。また、介護保険制度の理念「自立支援と在宅重視」をさらに推進していくために、本研究では訪問リハ・サービスの課題とその対策について検討することを目的とした。
【方法】対象者の概要:東京、埼玉、千葉、神奈川の1都3県の都市部で医療法人が提供する訪問リハ・サービスの利用者249名。性別:男性74名、女性93名、年齢:男性76.2歳、女性80.3歳、平均年齢78.5±11.1歳、後期高齢者(63.5%)、前期高齢者(27.5%)、第2被保険者(9.0%)、同居家族構成:2・3世帯以上の同居家族(46.1%)、配偶者同居(44.3%)、独居(9.6%)、住環境:持ち家
一軒家
(59.3%)、持家マンション(24.6%)、公営・民間借家(16.2%)である。方法は、自計式配票調査法を用い、各担当セラピストが調査票配布し、1週間の留置回収法を採用した(回収数167名、回収率67.5%)。調査時期は、2008年8月~9月。調査項目は、基本属性:性別、年齢(第2保険者;40歳~64歳、前期高齢者;65歳~74歳、後期高齢者;75歳以上)、独居家族構成:独居、配偶者同居、2・3世帯以上同居、住環境:持家
一軒家
、持家マンション、公営・民間借家、要介護度(1~5、要支援1、2)である。分析法は、要介護度と基本属性、家族構成、住環境、生活の豊かさ(住環境+家族構成)の関連について統計ソフトSPSS17.0で単純集計と
χ2検定、および相関係数を用いて分析した。
【説明と同意】調査、および調査結果の公表は、厚生労働科学研究に関する指針に従った。
【結果】1.性別と要介護度の関連を見ると、男性は要介護3、女性では要介護4を頂点とする右肩上がり山型の構成を示す。2.年齢との関連では、後期高齢者群では要介護3、4を、前期高齢者群では要介護2、3を頂点とする右肩上がり山型の構成を示し、第2保険者群では要介護4を頂点とする緩やかな山型を示す。3.独居家族構成との関連では、配偶者との同居では要介護3を、2・3世帯以上同居では要介護4を頂点とする右肩上がりの緩やかな山型分布を示す。一方、一人暮らしの独居者では要介護3が同群43.8%で突出した歪な山型分布を示す。4.住環境との関連では、どれもほぼ要介護3~4を頂点とする山型分布を示すが、公営・民間借家はより緩やかな山型分布を示す。5.生活余裕群(2・3世帯以上同居+持家
一軒家
)は要介護4、生活キツキツ群(独居+公営・民間借家)は要介護3を頂点とした緩やかな山型分布を示し、その中間群(配偶者同居+持家マンション独居+公営・民間借家)は要介護3を中心に3極化している。しかし、調査データの統計処理結果からは明らかな有意差は認められなかった。
【考察】要介護度の重度化は、疾病・障害因子に加えて、加齢に伴う経時的変化としての老化が重なった累積結果によるものと推察される。生活環境の豊かな利用者ほど要介護度が重度にも拘らず訪問リハ・サービスを利用する傾向があり、逆に生活環境の厳しい利用者ほど要介護度の軽度な者が利用する傾向のあることが明らかとなった。今後、訪問リハ・サービスをどのような利用者にも公平かつ効果的に利用・普及していくには、現行の要介護度に応じた利用限度額内でのサービス選択システムでは制度設計上限界があることが推察され、そのことが訪問リハ・サービス普及の阻害因子になっていることが示唆された。今後の課題として、要介護重度利用者において生活の豊かさの要因を集積し、内在する問題の質量差異を明らかにし、それに応じたサービスの保障を如何に行う必要があるのか、さらに症例を重ね比較検討する必要があろう。
【理学療法学研究としての意義】高齢者の地域・在宅リハビリテーションに関するわが国の研究において、地域・在宅に居住する生活者の立場に立った患者・利用者中心主義に基づいたサービスのあり方の研究は少なく、その基礎資料として訪問リハ・サービス利用者の生活実態に関する研究はほとんど見あたらない。このようなことから、訪問リハ・サービス利用者の生活実態を把握し、サービスの在り方を検討することは、利用者のより高いニーズに応える近道であり、そのことが訪問リハ・サービスの普及伸展を促し、新規の地域・訪問セラピストの地域・在宅リハ労働市場への流動化につながるものと考える。
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