論理的思考が, 問題の形式, 問題の内容, 複雑度等の要因によってどのような影響を受けるかが, 命題演算を課題として発達的に検討された。さらに, 経験強化的な訓練と記号操作的な訓練を行なうことにより, 思考がどのように促進されるか, そして, それは上記の効果にどのような差異をもたらすかが分析的に考察された。
命題演算の推論形式は解決の難易と密接に関係しており, 基本形, 対偶はやさしく, ウラは非常に困難であるということが明らかとなった。これは, ウラの解決が, 命題項 (概念) 間の包摂関係の理解を前提とするという論理操作上の複雑さに加えて, 日常的には, 概念の大小関係が看過されたかたちで推論がなされてしまつても, それが誤りであることに気づく必要のないことが多いことの結果と考えられる。
推論の内容は経験的な内容である場合にもっとも正答率が高く記号を用いたものがそれにつぎ, 経験に逆らうもの, 経験からの援助を受け得ないものは概して成績が悪かった。したがって, 推論内容は, 経験要因の依存変数であるとする仮説は支持されたといえよう。
量的な複雑度は, 命題項数4までと6以下に一定の断絶のあること, また2-4の間の差は訓練によって縮少されうることが示された。ただし, この要因については, 統計処理はなされなかったので, 今後検討の必要がある。
命題演算の解法の訓練は, それぞれ年令に即した効果を有した。小2-小5では経験強化の訓練が, 小6-中 3では記号操作の訓練が適切であるとする仮説は, 推論形式ウラにおいてのみ支持される傾向にあったが, この仮説は全体としては, むしろもう1段階低い年令, すなわち小2-小3, 小4-小6においていえることが示された。したがって, 概して, 発達の次の段階で支配的となる操作の様式を訓練することが望ましいと考えられる。
また, 一般に推論根拠の検討には, 誤答の分析が有用であった。解答カテゴリーの分布は, 概して低学年ほど, 無理解, 単なる問題文の反復, 経験作文的解答が多いのに対し, 高学年ではそれらのカテゴリーはごくわずかとなり, 単に推論形式を識別しえないことからくる形式上の誤りに属するものがほとんどであった。その傾向は, 小5 (ないし小6) を移行期として明瞭に認められた。したがってこの時期に新しい思考様式が準備されると考えることができよう。中学生になると正答率には発達的変化が反映されにくいが, 誤答の質には一定の向上がみられ, 中3において無意味な誤りが最も少ないことが明らかになった。
実験IIの仮説2は支持されず, 仮説3は傾向として支持された。仮説4については明らかな結論が得られなかった。
今後の問題としては, 訓練内容とそれによって生ずる解答カテゴリー移動ないし推論根拠の変化の詳しい分析, 課題としての個々の命題演算の等質性の検討, および単なる量の増大としての複雑度要因の効果の分析等が指摘されよう。なお, ウラに関する推論の発達的傾向についても検討が必要であろう。
抄録全体を表示