水制工として江戸期に設置された加納猿尾は,犬山扇状地を流れる一級河川木曽川の急流部に現存する猿尾であり,木曽川の猿尾の中で群を抜いて長大な石猿尾で現在も役目を果たしている.本研究では,この加納猿尾について,文献・資料などを基に河川災害の発生から猿尾の設置に至る歴史的経緯を調べると共に,石猿尾の全国調査データを使用して農業土木遺産的価値について考察を加えた.その結果,加納猿尾は江戸初期設置の石猿尾として,現役で日本最大級の水刎ね水制工であることが明らかになった.
近年の河川は,降雨量増大や樹林化により流下能力の低下が進んでいる。また,環境面から整備や管理において自然との共生が求められている。このため,治水の歴史を知り,先人の智恵に学ぶことが肝要である。木曽川上流部では,近世に国役普請が多数回行われ,現役の治水施設も多い。そこで,洪水普請絵図に基づき,河道特性と工事の設計思想を分析した。その結果,治水工法は礫床河川に用いられる石水制を主体として,沈枠などで洗掘防止を図っていたことが明らかになった。
木曽川上流部における築堤は,1601 年から1609 年にかけて行われたが,その後も多発する洪水により破堤し,猿尾が特定な期間と箇所に多数設置された。本研究は,猿尾の設置基数と河道特性,および猿尾高による破堤防止効果との関わりについて考察を加えた。その結果,猿尾の設置密度は洪水水面勾配,および猿尾高は破堤と関連していることが明らかになった。
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