1.はじめに
海洋に覆われた島国である日本は活発化した総観規模の温帯低気圧の通過域に位置する.温帯低気圧が最も活発化する寒候期に影響を及ぼす低気圧は,主に日本海低気圧と南岸低気圧に大別できるが,このふたつに劣らず重要な現象として
二つ玉低気圧
が存在する.
ある程度悪天の範囲が限定的である他のふたつに比べ,
二つ玉低気圧
は悪天が広範囲に及び,ときには大雨や強風をもたらすこともあるため,非常に予報しにくい現象のひとつである.
しかし,
二つ玉低気圧
を主解析とした気候学的な視点からの研究はUmemoto(1982)が季節別発生頻度を求めたのみで,擾乱による影響を解析した研究例は非常に少ない現状にある.
本研究は,
二つ玉低気圧
がもたらす影響を気候学的な視点から考察し,主に降水量と地上風との関係から,その擾乱について特徴を明らかにすることを目的とする.
2.対象地域および対象期間
対象地域は小笠原諸島,南西諸島を除いた日本全域とし,解析対象地点にAMeDAS(降水量データは241地点,風向・風速データは91地点)を採用した.
対象期間はAMeDASの導入後とし,データの精度,欠測値の有無を考慮した上で,1981年~2008年の28年間とした.
3.使用資料および解析方法
使用資料は気象庁発行のアジア太平洋地上天気図とAMeDASの1時間値データ(降水量,風向・風速)である.
解析方法を以下に示す.
(1)アジア太平洋地上天気図から
二つ玉低気圧
の気圧配置パターンを抽出.
(2)南北の両低気圧が25N~45N,115E~130Eの範囲で発生し,25N~50N,120E~150Eの範囲を移動した事例を抽出.
(3)抽出された35例を進行タイプからParallelとCouplingに分類.
(4)抽出された35例の低気圧移動経路図を積算し,全事例およびタイプ別(ParallelおよびCoupling)の移動経路集積図を作成.
(5)
二つ玉低気圧
の中心示度の気圧差から主従関係を読み取ることでParallelおよびCouplingをさらに分類し,事例をPj,Pp,Px,Cj,Cp,Cxに細分化.
(6)分類した事例ごとのひと雨降水量分布図を作成.
(7)3時間ごとにおける低気圧の中心位置および風向・風速データのベクトルを合成した降水量偏差図を作成.この際,3時間ごとにおける低気圧の中心位置は6時間ごとに印刷されているアジア太平洋地上天気図から低気圧の中心位置を線分で結び,その中点を採用した.また,風向・風速データは3時間ごとの卓越風向・平均風速をそれぞれ採用した.降水量データは立方根変換を施した後に,各地点における3時間降水量を算出し,全地点における3時間降水量の平均値からの各地点における偏差を求めた.
4.結果
(1)単独で発生する温帯低気圧同様に,寒候期に
二つ玉低気圧
の発生数も増加し,冬季から春季へ向かうにつれ,主要進行タイプがParallelからCouplingへ移行する.
(2)Parallelは日本海低気圧側に主要経路が2本存在し,Couplingは南岸低気圧側の主要経路がParallelに比べ日本列島側に近づく.また,Couplingの併合位置は40N,145E周辺が高頻度である.
(3)進行タイプの違いにおいて明確な違いが生じ,Parallelは南北の低気圧間の主従関係に良い対応を示し,Couplingは必ずしもそうとは限らない.
(4)Pj,Pp,Cjはある程度限定した多降水域の拡縮がみられ,それに起因する風系の変化もみられる.しかしCpは統一性がみられない.
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