1. 目的 我々はシラカンバの腋芽を含む節切片を
二重構造
のアルギン酸ゲルで包埋した人工種子が滅菌していないパーライト(ネニサンソ、三井金属鉱業)上で発芽することを、以前に報告した。しかし、シラカンバの腋芽を含む節切片を用いて作った
二重構造
の人工種子が発芽・生育できる非無菌の条件はネニサンソ上に限られている。この人工種子をバーミキュライト上で発芽させることを何度か試みたが、結果はきわめて不安定であった。 我々の
二重構造
の人工種子は内部のアルギン酸ゲルのビーズに高濃度(39%, w/v)のショ糖を含んでいる。しかし、アルギン酸ゲルの内外では、溶液に溶けている物質はかなり自由に移動することができるため、人工種子中のショ糖は継続的に外に漏れだしている(木下, 2001)。このショ糖によって人工種子の周囲が微生物の成育に好都合な環境になることが非無菌条件下での人工種子の発芽を妨げている主な要因の一つであると考えられる。そこで、本研究では人工種子から周辺の非無菌の基質(バーミキュライト)へのショ糖の漏れを止めることを目的として、人工種子の外側を半透膜で包んだ人工種子を作製し、通常の人工種子は安定的に発芽できなかったバーミキュライト上で発芽するかどうかを調べた。2. 実験方法 アルギン酸ゲル中のショ糖が外に漏れるのを防ぐことと人工種子が自力で吸水できるようにすることを目指して、人工種子の外側を透析膜で包んだ。実際の構造は、39% (w/v)ショ糖を含むアルギン酸ゲルのビーズと、節切片を薄いアルギン酸ゲルの層で包埋したものとを別々に作り、一端を糸でしばって閉じた透析膜のチューブに入れたものである。 対照として、前に報告した方法(木下・斉藤, 1989)で作った
二重構造
の人工種子を用いた。 この二種類の人工種子を滅菌していないバーミキュライトに蒔いて、発芽の状況を比較した。3.結果 透析膜で包んだ人工種子は34個作り、発芽のテストを行った。この人工種子は約10日で発芽が始まり、2週間で半数以上が発芽した。しかし、
二重構造
の人工種子(29個をテストした)ではこの時期には全く発芽は起きなかった。ここで言う発芽とは腋芽が成長して葉がアルギン酸ゲルの外に出ることを言っている。 21日目には、すべての透析膜で包んだ人工種子のシュートが伸長していたが、
二重構造
の人工種子は29個中1個だけが葉がアルギン酸ゲルの外に出ていたものの、その他は全てまだ発芽していなかった。 30日目に調査したところ、透析膜で包んだ人工種子は34個すべてが発芽し、シュートは1 cm程度伸長していた。ところが、
二重構造
の人工種子は29個のすべてが緑色を維持していたものの、1, 2枚の葉が出ていたものが7個、茎頂が確認できるものは1個しかなかった。 同様の実験を数回繰り返した結果、
二重構造
の人工種子は滅菌していないバーミキュライト上では全く発芽しないことも多く、実験ごとの結果の違いが大きかった。上に述べた実験はもっとも良い結果であるが、それでも多くの人工種子が発芽するには30日以上かかった。ところが、透析膜で包んだ人工種子はどの実験においても再現性良く短期間で発芽し、シュートが成長した。
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