病院の理念や運営方針、目標等の浸透度による医療従事者の意識の違い、属性による理念等の浸透度の差異を明らかにするため、医師会立病院に勤務する全職員(480名)を対象に意識調査を行った。分析対象者とした224名の回答を分析した結果、年齢階層、役職階層、勤務年数といった各要因の水準間で理念等の浸透度に有意な差が認められた。また、理念等を理解している職員は能力と仕事の適合感及び病院に対する帰属意識が高く、理念等を踏まえた活動を実践している職員は、それらに加えてやりがいや勤続意欲といった仕事に対するモチベーションが高いことが示唆された。
病院職員の組織への一体感や士気の向上を図るためには、理念等は単に示されるだけではなく、具体的な運営方針や目標を併せて設定するなどして職員への浸透を図ることが不可欠であると考えられる。
理学療法診療ガイドライン第1版が出版され,理学療法士の間で利用する人が増えてきている一方で,エビデンスに基づいたEBPTはなかなか地に足がついて進んできていない。その原因を,理学療法士の資質や制度を概観して検討すると,その原因の代表的なものの一つに療法士と患者間のコミュニケーションの在り方があると認識できる。患者への説明や患者の診療の選択の意思決定ツールとしてガイドラインの利用が望まれる。また,理学療法の思考過程の中で経験則や思い込みなどだけではなく,理学療法の臨床判断の特殊性も加味しながら,テクニカルスタンダード,ガイドライン,エビデンス,個別性を考えEBPTの5つのステップに沿って思考過程を展開し,検証することが重要であることを強調したい。最後にEBPTを知識として持っているのではなく,まずは患者さんとしっかりコミュニケーションをとり,さらにEBPTを実施することがガイドライン活用の第一歩と考える。
医療費を抑制するために、入院医療の急性期や急性期以外の回復期リハ等・慢性期のいずれにおいても、医療機関のコストや機能等を適切に反映した総合的な評価として、包括払いの導入可能性が示唆されている。平成15年度より特定機能病院などでは、診断群分類別包括評価制度(DPC)が導入されており、医療機関の経営上、原価の把握は重要な課題となっている。本研究では、3病院を対象とし、各病院において白内障に対する標準的な医療の流れに則ったクリニカルパス(以下パス)を作成し、パスを雛形として標準原価と、出来高払いおよび参考値としての包括払いを想定した収益を算定し、収支状況の把握を行い、病院間で比較した。さらに病院間で医療内容の相違から生じる標準原価への影響を検討した。その結果、人件費や検査費の原価が高い病院では、収支差額が低くなる傾向にあった。患者への診療などの介入頻度や検査の種類・回数などの病院間の医療内容の相違が人件費や検査費の原価を変動させ、標準原価に影響を与えていた。DPCなどへの医療の標準化に対応するためには、パスを活用した原価計算を行い、医療の質を保障した経営資源の最適化を図ることが重要となることが示唆された。
病院は一般企業と違い、行政の医療政策のもとで運営を行っていることから、相対的に大きな経済的リスクに直面することなく、運営できる状態であったといえよう。しかし、病院自ら組織を維持し発展させる為には、一般企業と同様の組織活動は行わなければならず、その為には、自らの力を適宜把握しておく必要性がある。そこで、病院運営も一般企業と同様に、財務データに集約される以前の定性情報の中に、病院の運営に影響を及ぼす重要な要因があるのではないかと考えた。本研究では、「定性情報による病院運営の要因」を、公益財団法人日本医療機能評価機構のデータを用いて数量的に評価し、定性情報の関連を明らかにすることにした。分析の内容は、「病院方針」と「病院環境」 が、病院の「運営管理」に影響力があると仮定し分析を行った。データには、公益財団法人日本医療評価機構の評価データを活用し、分析法には共分散構造分析を用いて分析を試みた。結果、モデルの全体的評価は、GFI=0.958、AGFI=0.941、CFI=0.865、RMSEA=0.044で十分な適合を示し、適合度は高度に有意であった。
以上より今回の分析において、「病院方針」と「病院環境」は、「運営管理」に対して、影響を与える要因であるということが示唆されたといえよう。
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