平成6年9月から平成7年4月までと平成7年9月から平成8年4月までの両期間における60歳以上の一連の入院患者 (男性82例, 女性65例, 平均年齢72.2歳) に対して, 頸動脈病変の評価を行い, 各種危険因子および動脈硬化性疾患 (虚血性心疾患, 一過性脳虚血発作, 脳梗塞) との関係について検討した. 頸動脈病変については, 超音波断層装置 (日立EUB-565) と7.5MHzリニア型探触子を用いて総頸動脈後壁側のプラーク病変を除く内中膜複合体の厚さ (以下頸動脈壁厚) を両側2点ずつ計測した. 各種危険因子については, 血圧, 喫煙歴, 糖尿病の有無, 総コレステロール (以下T-Chol), 中性脂肪 (以下TG), HDL-コレステロール (以下HDL-C), LDL-コレステロール (以下LDL-C) を測定した. 頸動脈壁厚と年齢との関係では, 男性r=0.45 (p<0.0002), 女性r=0.38 (p<0.002) と正の相関を認め, 男性の頸動脈壁厚1.1±0.3mm, 女性は1.0±0.2mmであり, 差異を認めた (p<0.03). 各種危険因子との関係では, Brinkman Index (r=0.25, p<0.003), 収縮期血圧 (r=0.44, p<0.0002), 拡張期血圧 (r=0.18, p<0.05), 脈圧 (r=0.44, p<0.0002), LDL-C/HDL-C (r=0.17, p<0.05) といずれも正の相関を認め, 一方HDL-C (r=-0.23, p<0.01) とは負の相関を認めた. 頸動脈壁厚を目的変数とし, 各種危険因子を説明変数とした重回帰分析を行ったところ, 年齢, Brinkman Index, 収縮期血圧, HDL-C, 糖尿病の存在が有意な寄与因子であった. 動脈硬化性疾患の有無との関係では, それを有する群では壁厚は有意に大きかった (p<0.006). 以上から60歳以上の高齢者においても加齢, 喫煙歴, 収縮期高血圧, HDL-C低値, 糖尿病の存在は, 頸動脈肥厚の危険因子であり, さらに動脈硬化性疾患との間に有意な関係を認めたことは, 高齢者においてもこうした危険因子に対する積極的治療の必要性を示唆するものである.
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