本稿では,以下の2つの命題を巡って,研究開発費の
会計処理が会計
情報の価値関連性に与える影響を明らかにした。すなわち,(1)研究開発費の発生時費用処理又は資産計上について,どちらの
会計処理による会計
情報の方がより価値関連性が高いのかについての検証,及び(2)研究開発費を資産計上する場合の
会計
情報には,研究開発費の発生時費用処理を前提とした報告純資産簿価や報告当期純利益を所与としてなお,今までの情報に加えて追加的な情報内容があるのかということについての検証である。仮説1に関する実証結果は,研究開発費の発生時費用処理より研究開発費を資産計上する場合の
会計
情報のほうが,相対的情報内容が有意に大きいことを示している。すなわち,この結果は,企業価値のバラツキをよりよく説明できるという点で,研究開発費の資産計上による修正後純資産簿価と修正後当期純利益のほうが優れた
会計
情報であるということを支持している。次に仮説2に関する実証結果は,正味年間研究開発費と修正後研究開発資産は,投資者にとって価値の高い情報であることを立証した。また,報告純資産簿価と報告当期純利益を所与として,研究開発費を資産計上した場合の
会計
情報は追加的な情報を投資家に提供することが確認された。本稿の貢献は,第1は,企業価値を評価する上では,研究開発費を発生時費用処理より資産計上するほうがより有用な情報を提供していることを証拠付けた点である。これは,研究開発資産の価値関連性研究における重要な発見事項である。Barth,Beaver and Landsman(2001)によれば,価値関連性研究は
会計
情報の目的適合性および信頼性に対する総合的検証である。そのため,価値関連性が高い
会計
情報は,情報の目的適合性および信頼性も高いといえる。さらに,目的適合性及び信頼性は
会計
基準設定にとって最も重要な二つの判断基準であるので,価値関連性が高い
会計
情報は投資家だけでなく,
会計
基準設定機関にも重要視されている。したがって,本稿の実証結果は,研究開発費の
会計
基準再検討の必要性を示唆するものと思われる。第2は,他の価値関連情報を所与とした場合の修正後
会計
情報の追加的な情報内容を実証的に検証した点である。この実証結果は,特に研究開発活動を重視する製造業において,企業価値最大化を目標とする企業の経営政策に対して有効な指針を提供している。
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