【目的】日常動作では座位から立ち上がり、その後、歩き始め、定常歩行といった一連の連続した動作であり、この間の転倒が臨床上、問題にされることが多い。そこで座位からの歩きはじめの動作について運動力学的分析を行い、その特徴を検討したので報告する。
【方法】対象は、特筆すべき疾患を有しない若年健常男性16名で、内訳は平均年齢20.5±4.12歳、平均身長169.37±6.02cm、そして平均体重61.28±8.34kgであった。それぞれの対象者は、本研究の目的を説明し、そして、この研究の承諾を得たものであった。
対象は静的立位からの歩きはじめ、座位からの歩きはじめの2課題を行ってもらった。座位から歩行の歩き始めは、座面の高さを下腿の長さ、膝屈曲90°、足部は肩幅に合わせた。それぞれの課題は、通常行っている速度で行ってもらい、練習後、3回づつ計測を行った。
運動力学的データは、三次元動作解析システム・床反力計(Motion Analysis社)を用い計測した。その後、KinemaTracer(キッセイコムテック)を用い解析データを算出した。解析データとして、T.O時・I.C直前の重心前後方向速度(A-P V)、T.O時の静的立位重心高との百分率(%COG)、T.O時の第5中足骨と重心の前後方向距離(F.T-COG length)、I.Cまでの重心の支持脚方向への左右偏倚幅(R-L length)、1歩目の歩幅(S.L)、T.O時・I.C時立脚側の上下方向床反力体重比の最大値(%U-L GRF)・前後方向床反力体重比の最大値(%A-P GRF)を算出し、その平均値を各対象者の代表値として、t-testにて検定を行った。
【結果】T.O時およびI.C時のA-P Vは、共に座位からの歩きはじめが有意に大きかった(P<0.01)。%COGは、座位からの歩きはじめが有意に低かった(P<0.01)。F.T-COG lengthは、有意差は認められなかった。R-L lengthは、座位からの歩きはじめが有意に大きかった(P<0.05)。S.Lは、座位からの歩きはじめが有意に大きかった(P<0.01)。T.O時の%U-L GRF・%A-P GRFは、有意差は認められなかった。I.C時の%U-L GRFは、座位からの歩きはじめが有意に大きかった(P<0.05)。I.C時の%A-P GRFは、後方のGRFが座位からの歩きはじめの方が有意に大きかった(P<0.05)。
【考察】上記の結果から、座位からの歩きはじめは、立ち上がり途中から前方への速度を上げながら遊脚をはじめ、T.O 後は、支持脚側へ大きく重心を偏倚させながら、下肢を大きく踏み出していることが示唆された。さらに、T.O後に前方への速度をさらに上げながらI.Cを行い、その結果、I.Cを行う支持脚は上後方への大きな床反力を受けることになることが示唆された。
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