前腕最大囲部 (前腕近位1/3部) のCT写真について, 同部における各筋の断面積を計測し, 体型, 前腕の太さおよび年齢のそれぞれの各相における各筋の特徴を検討した.研究対象は20歳代から60歳代にわたる健康な篤志者104名 (男性49名, 女性55名) で, 体型はRohrer指数によるA (129以下) , C (130-149) , D (150以上) の3型に, 前腕の太さは前腕断面積によって8段階に, 年齢は10歳ごとに5段階にそれぞれ区分した.結果: 1) 前腕最大囲部における各筋の断面積の平均は男女とも深指屈筋が最も大で, 以下, 短橈側手根伸筋, 橈側手根屈筋, 浅指屈筋,
円回内筋
の順に大であり, 各筋とも実際値は常に男性が女性に優ったが, 全筋に対する比率では性差は認められなかった.2) 各筋の断面積と比率を体型別に見ると, 男女ともA, C, Dの体型の順に実際値は大となる傾向を示したが, 比率は橈側手根屈筋と短橈側手根伸筋は上昇,
円回内筋
と深指屈筋は下降の傾向が見られ, 前2者は他よりも発達傾向が著しいことが考えられた.3) 前腕断面積の増加に伴い各筋の断面積にも増加の傾向が認められたが, 比率においても増加を示すものは男性では橈側手根屈筋, 短橈側手根伸筋, 総指伸筋, 小指伸筋, 女性では橈側手根屈筋, 腕橈骨筋であった.すなわち, 男性では手根の屈伸と橈側外転および指の伸展に関与する筋が, 女性では手根, 肘の屈曲に関与する筋がそれぞれ他よりも著しい発達を示すと考えられた.4) 年齢的に筋の総断面積は男性では30歳代で, 女性では50歳代でそれぞれ最も大であり, 60歳代に向って減少の傾向を示した.個々の筋について見ると, 男性では
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, 深指屈筋, 長掌筋, 橈側手根屈筋, 長, 短橈側手根伸筋, 腕橈骨筋は同調し, 逆に浅指屈筋には加齢的増加が見られ, 女性では深指屈筋, 浅指屈筋, 橈側手根屈筋および背側伸筋群全般に僅かずつ同様の傾向が見られた.すなわち, 男女間に筋退縮の相違があることが明らかであった.5) 以上のことから, 身体諸相の変化に伴う前腕の筋の消長には男女の差があることが明らかであり, 前腕機能の性差が考えられた.
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