2002年6月-2003年12月, 厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業 (JANIS) に参加した18施設のICU収容患者10314名を対象にして, 分母の設定が異なる5種類の院内感染率を比較検討した. 院内感染の定義はICU入室2日目以降の感染であり, 本研究では肺炎に注目した. 院内感染率の分母は (1) ICU入室数,(2) ICU在室日数,(3) 人工呼吸器装着日数の3種類であり,(2) と (3) に関しては感染後の日数を含めた場合 (NNISが提唱している感染率) と感染前の日数に限定した場合を設定した.
ICU在室日数あたりの感染率は感染後の日数を含めた場合 (7.4/1000在室日) と感染前の日数に限定した場合 (7.8/1000在室日) とで有意差を認めなかった. ICU入室数あたりの感染率とICU在室日数あたりの感染率を施設別にプロットした結果, 有意な相関を認めて, 18施設の順位付けが0致した. 人工呼吸器装着日数あたりの感染率は感染後の日数を含めた場合 (14.1/1000装着日) と感染前の日数に限定した場合 (15.6/1000装着日) とで有意差を認めなかった. ICU入室数あたりの感染率と感染前の日数に限定したICU在室日数あたりの感染率について, APACHEIIスコアを調整した標準化感染比と粗感染率は必ずしも一致せず, 18施設の順位付けに違いがみられた.
NNISが提唱している感染率は (1) 集計・解析のプロセスが簡略であり, 実践的である,(2) ICU在室期間やディバイス装着によるリスクを調整できる,(3) 疫学的観点からも許容できる値を算出できる点から有用である. ただし, ICU在室期間やディバイス装着を考慮しないICU入室数あたりの感染率を用いても施設問比較に耐え得ると考えられた. 患者の重症度を調整しうる感染率の定義を確立することは今後の検討課題である.
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