8020運動の最も重要な目的の1つに, 咀囑能力の維持が挙げられる。歯を多く残すことが, 咀噛能力の維持に有利であることは, 従来の調査検討で明らかになっているが, 臨床の場において, 歯の数だけでは咀噛能力を説明できない症例を数多く経験する。そこで本報告では, 口腔以外の全身機能も含め, 老年者における咀囑能力に影響する因子の解析を行った。
解析の対象は, 秋田県仙北郡南外村在住者, 男性220名 (平成4年6月1日現在65歳以上84歳以下) のデータである。解析に用いたのは, 口腔内調査項目として, 天然歯数, 機能歯数, G-1ゼリーによる咀囎能力試験の3項目, 身体機能調査項目として, 身体計測 (体重, 骨塩量, 皮下脂肪厚), 運動機能 (握力, 平衡機能, 歩行速度), および年齢であった。
咀噛能力が質的データであるため, データ構造把握のために, 林の数量化理論III類を用いて解析した。
解析結果は, 1) 咀噛能力1群 (常食咀噛が困難な群) と咀囎能力3群 (常食咀囑可能群) との間には, 機能歯数の差の要因が関与すると推測した。
2) 咀噛能力5群 (ほとんどの食品が咀囎能力な群) と咀囑能力3群との問には, 運動機能の, および年齢の相違が関与すると推察している。
すなわち, 咀噛能力1を咀噛能力3に移行させるためには, 歯科医師による補綴処置などによって, 機能歯数を増加させることが効果があり, 咀囎能力5の維持には, 天然歯数の維持などの口腔ケアだけでなく, 全身機能, 特に運動機能の維持が重要な因子であると考えられた。
抄録全体を表示