【はじめに、目的】 客観的に歩行機能を評価する上で、歩行周期時間を算出することは非常に重要であり、簡便に歩行周期時間を含めた歩行指標の計測が可能である、小型センサを用いた歩行解析方法が着目されている。これまでに、小型加速度センサもしくは小型角速度センサを用いた様々な歩行解析方法が開発され、各方法における歩行周期時間計測の
妥当性
について検討されているが、センサの装着位置や歩行イベント同定方法は一定でなく、未だ標準的な計測方法の確立には至っていない。近年、加速度センサと角速度センサのように異なる種類のセンサを組み合わせたハイブリットセンサが実用化され、ある部位における加速度および角速度データを同時に測定することが可能となった。踵部の加速度データは、Heel Contact (HC) により生じる衝撃を直接反映すると考えられる一方で、角速度データは、Toe Off (TO) の際の踵部の運動方向の変化を鋭敏にとらえることが可能であると考えられる。そこで、本研究では、ハイブリットセンサを用いて踵部における加速度データおよび角速度データを計測し、それらのデータを組み合わせて歩行周期時間を算出する方法の
妥当性
を検討することを目的とした。【方法】 対象は、10名の健常若年成人 (21.1 ± 2.0歳、女性 5名) および、10名の地域在住高齢者 (80.9 ± 6.7 歳、女性 5名) であった。対象者は、両側踵部後面に、3軸加速度センサおよび3軸角速度センサを内蔵した小型ハイブリッドセンサを装着し、20mの歩行路での歩行を行った。参照データの計測のために、両側踵底面および母趾底面に圧センサを装着した。小型ハイブリットセンサより得られたデータから歩行周期時間を算出する方法として、HCを垂直方向の加速度データより、TOを矢状面での角速度データより同定して算出する方法 (acceleration - angular velocity法 ; A-V法) および、HC、TOともに矢状面の角速度データより同定し算出する方法 (angular velocity - angular velocity法 ; V-V 法) の2つの方法を用いた。なお、歩行周期時間の算出は、安定した状態の20歩分のデータにて行った。統計解析は、上記2つの方法で算出された歩行周期時間 (ステップ時間、立脚期時間、遊脚期時間) と、圧センサにより算出された歩行周期時間との同時
妥当性
を検討するため、級内相関係数 (intra-class correlation coefficient : ICC 2,1) を算出した。また、誤差範囲を推定するために、歩行周期時間における誤差の許容範囲 (limits of agreement: LOA) の算出も行った。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は神戸大学大学院保健学倫理委員会の承認を得た後に実施し、対象者より、事前に書面と口頭にて研究の目的・趣旨を説明し同意を得た。【結果】 若年成人、高齢者ともに、ステップ時間および立脚期時間においては、圧センサにより算出された時間と、A-V法およびV-V法により算出された時間との
妥当性
は共に高く、ICC2,1 が0.93から0.99の間であり、LOAは0.6%から6.8%の間にあった。一方で、遊脚期時間の算出においては、A-V法のICC2,1が若年者では左0.89および右0.91、高齢者では左右ともに0.83である一方で、V-V法のICC2,1は若年者で左0.83および右0.87、高齢者で左0.79および右0.81と、A-V法はV-V法に比べ圧センサを用いて算出された時間との一致度が高くなっていた。遊脚周期時間におけるA-V法およびV-V法と、圧センサを用いた方法とのLOAは6.0%から11.0%の間の値をとり、誤差の許容範囲に大きな差はみられなかった。【考察】 ステップ時間、立脚期時間の算出では、若年成人・高齢者どちらにおいても、A-V法およびV-V法ともに、圧センサを用いる方法とのICCが0.90以上であり、両方法ともに非常に高い
妥当性
が認められた。これは、高齢者において加速度センサを腰部に装着し、算出したステップ時間の
妥当性
を検討した先行研究で報告されているICCよりも高値を示しており、歩行イベントの同定が難しくなると考えられる高齢者において、踵部後面にセンサを装着することで、より正確な歩行周期時間の算出が可能になることを示唆している。一方で、遊脚期時間の算出におけるICCは、A-V法がV-V法に比べて高値を示しており、すべてが0.80以上とgood以上のグレードであった。したがって、歩行周期時間を算出する方法として、角速度データのみを用いるV-V法より、加速度データと角速度データを組み合わせるA-V法がより有用であると考える。【理学療法学研究としての意義】 小型センサを用いた歩行計測は、簡便かつ安価で、客観的に歩行機能を評価できる方法であるため臨床応用が期待されている。本研究により、地域在住高齢者に対しても
妥当性
が高い歩行周期時間算出方法が示されたことは、理学療法士による実際の評価場面における、客観的な歩行機能評価の施行への一助となると考える。
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