本研究では、
家紋
独自のデザイン手法である「変形」に着目し、
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の形態的特徴と印象の関係を明らかにすることを目的とした。この目的のために、芸術作品のモチーフとして用いられることの多い植物を象徴した
家紋
に着目し、30 種の植物紋の原形にたいする印象評価を実施した。得られたデータから植物紋を分類したところ、4 クラスターが抽出された。次に、各クラスターの代表的な特徴を示すと考えられる12 種の植物紋の原形にたいして4 パターンの変形を適用し、48 種の植物紋の変形を作成し、これらにたいする印象評価を実施した。その結果、植物紋の印象には評価性、力量性、柔和性の三因子が影響していることがわかった。さらに、植物紋の変形による印象の変化は、元の
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の印象によって異なることが示唆され、次の4 パターンで説明できることがわかった。
1) 幅が狭く、葉脈や尖端の多い
家紋
・評価性:要素の増加によって上昇
・力量性:要素の減少によって低下
・柔和性:まとまりをもたらすことで上昇
2) 茎と丸みのある実が特徴的な
家紋
・評価性:丸みをさらに加えることで上昇
・力量性:要素の増加によって上昇
・柔和性:シンプルさによって上昇
3) 幅が広く、脈の多い
家紋
・評価性:円の囲いの付加で上昇
・力量性:要素を減らすことで低下
・柔和性:要素を減らすことで上昇
4) 脈が少なく、丸みや幾何学的な形状が特徴的な
家紋
・評価性:要素の複製から秩序をもたらすことで低下
・力量性:丸みの付加で上昇
・柔和性:変形に依存しない
これらの結果のうち、評価性では先行研究の結果を支持する一方で、柔和性・力量性では
家紋
独自の傾向がみられた。本研究で得られた知見は、
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をとおした日本人独自の美的感性を理解し、その形態的特徴を日本らしい製品のデザインに応用するための知見の集積に貢献すると考えられる。
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