重イオンビームの家蚕に対する生物影響とその利用法を開発する目的で, 家蚕の4・5齢幼虫に重イオンを全体および局部照射し, その後の成長および形態形成に及ぼす影響を調べた。炭素イオンおよびヘリウムイオンの全体照射実験から, 両イオンの照射効果はほぼ同様であり, 4齢幼虫は5齢幼虫より感受性が高いこと, 蛹化率および羽化率は照射線量が増大するにつれて低下することが分かった。一方, 4齢催眠期の幼虫および熟蚕に局部照射した場合は, その後の生存に大きな影響は見られないが, 照射部位・線量に応じて卵形成阻害, 翅や鱗毛の欠失などの局部的な影響が誘導された。局部照射により熟蚕の組織・器官の重イオン感受性を調べたところ, 生殖巣が最も感受性で (部分傷害を誘導する表面線量: 10-40Gy), 次いで外部生殖器, 複眼・触角および翅の原基等で高く (20-70Gy), 皮膚組織 (150-175Gy) や神経系 (500-900Gy) で低いことが明らかになった。これらの結果から, 重イオンビームの局部照射によってラジオサージャリーが可能であり, 各種の生体機能解析研究に有用であることが示唆された。
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