猪名川流域における鉱山と河
川底
質中の重金属元素濃度分布との関係を蛍光X線(XRF)と電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて詳細に検討した.調査地域の猪名川流域は兵庫県東南部に位置する.この地域は主として超丹波帯,丹波帯の堆積岩コンプレックスおよび白亜紀火成岩類からなる(松浦ほか,1995).また,本地域には鉱床を伴う珪長質岩脈が多く分布する特徴をもつ.これらの中で,多田鉱山は規模の大きい鉱山であるが,ほかの鉱山は小規模である.これら鉱山はすべて多金属鉱脈鉱床に属する.調査地域において鉱山の多くは猪名川流域の中流部に分布し,上流部や下流部にはほとんどみられない.猪名川上流部や下流部の河
川底
質中のCu,Zn,Pb濃度は大部分の採取地点で低い.特に,上流部ではきわめて低い濃度をもつ.一方,休廃止鉱山の多くが分布する猪名川中流部の河
川底
質中のCu,Zn,Pb濃度は,上流部や下流部の濃度に比べ明らかに高い.河
川底
質中のAsの濃度は多田鉱山近傍でやや高い.また,Asは湧泉中に沈積した水酸化鉄を主とする沈殿物で著しく高い値をもつ.高い重金属元素濃度を有する河
川底
質をFE-SEMを用いて検討すると,多数の鉱石細片がみられた.これら鉱石細片は形態や化学組成から判断して,斑銅鉱,閃亜鉛鉱,黄鉄鉱,方鉛鉱などで,鉱山の主要鉱石と考えられる.これらデータは猪名川流域の河
川底
質の高い重金属元素濃度は,鉱山稼働中に排出された鉱石細片にその原因が求められることを示唆している.
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