透析導入期には, 血小板異常や凝固系異常に加え, 抗凝固剤の使用やストレス刺激なども加わり, 易出血性の状況となる. 今回我々は保存期腎不全患者の大腸内視鏡検査中, 大腸に広範な粘膜血管拡張を認め, それが検査中に拡大してきたため, 緊急手術に至った症例を経験した. 症例は66歳男性で, 溢水による呼吸困難で近医を受診した. 血液濾過を計6回施行し症状は軽快したが, 徐々に腎機能が悪化したため, 血液透析導入目的で当院に入院した. 入院時検査で便潜血反応が陽性であり, 消化管精査を施行した. 上部内視鏡検査では, 重度の萎縮性胃炎と出血性胃炎を認めた. 下部内視鏡検査では, 下行結腸下部観察中に丸い腫瘤様病変がみられ, 急速に増大し, 粘膜下血腫の形態となり, 次第に肛門側に広がった. 破裂による大量出血の危険性もあると判断し, 緊急手術を行った. 大腸を検索したところ下行結腸長軸に長い
巨大数
珠様の血腫様所見を認め, 術中にも次第にS状結腸へ広がった. このため左半結腸切除術を行った. 病理組織学的所見では, 血管壁は全周にわたり保たれており, 血腫ではなく, 粘膜下層から粘膜にかけての大腸粘膜血管の巨大拡張であった.
透析導入期には尿毒症症状が強く, 毛細血管破綻や形成障害などによる易出血傾向が潜在する状態であり, 慎重な経過観察が必要である. このような症例の報告は我々の検索した範囲では見あたらず, 稀有な症例と考える.
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