【目的】EBMの考えが普及して、根拠のある治療効果判定が急務となり、理学療法における客観的評価方法が各種創出されている。
我々理学療法士にとって、治療効果判定の際、ROM評価、ADL評価と並んで、筋力評価は非常に重要な評価法の一つである。
しかし、筋力評価の問題点には、代償動作や、検者の経験などの因子の他に、被検者の心理的要因も蒸しできない問題であろう。しかし、心理的状態を加味した筋力評価に対する先行研究は少ない。
心理的コンディションに対して、客観的に評価できる方法はあるのだろうか?
これら客観的心理状態の評価は、主に質問紙法によるものがほとんどであった。しかし、実施に際し時間がかかることや、あくまでも主観的な情報を尺度化することから、厳密な意味での客観化とは言い難い側面がある。
客観的心理状態評価として、心電図による周波数解析や、体液のストレスマーカーを抽出する方法が用いられ、これらは交感神経緊張度をストレスの尺度として用いていられている。ストレスマーカーは各種存在するが、その一つであるノルエピネフリンが、唾液中の消化酵素であるαアミラーゼ(以下AMY)の活性量と比例することは以前から知られていた。
最近、AMYを簡便に計測する機器が開発されたことから、客観的なストレス計測機器として、商品開発分野や医療系などへの応用方法が模索されている。今回、等速性筋力計測時のAMYを計測し、心理的ストレス度の違いから、出力されるトルクや、反応時間などを計測し、興味ある知見が得られたので報告する。
【方法】被検者は健康な17名(女5名、男12名)、平均年齢21.8±5.8歳で、今回の計測の内容を説明し、同意を得られた者に対して行った。まず、日内変動を考慮し、午前中安静時のAMYを計測し、これを安静時AMYとした。次に、筋力測定前AMYを計測した。次に等速性筋力測定機(BIODEX SYSTEM3:BIODEX社製)を用い、60deg/secにて右膝伸展、屈曲トルクを5回計測した。その際、内側広筋部(VM)、と大腿直筋(RF)に筋電図(TELEMYO2400:NORAXON社製)の電極を貼付け、筋電波形を抽出した。また、反応時間は、音によるトリガーを用いて、膝伸展開始筋電波形から抽出した。
【結果】筋力測定時にAMYが高い群(活性時)は低い群(安静時)に比較し、ピークトルク、反応時間共に危険率1%で有意に向上した。また、最大筋力が発生した回についても、活性群は早い時点でピークトルクを発生することが出来た。
【考察】Yarkes & Dodson(1908)らは身体的パフォーマンス発揮が必要な場合に、心理的喚起水準が存在することを提唱し、逆U字理論を唱えた。しかし、概念のみで客観的に証明した事例は少ない。今回の計測により、最大筋力計測が必要な場合にはAMYを高めることが必要なことを証明し、「最大筋力」の筋力評価に対して、より精度の高い測定が行う事が可能になると結論付ける。
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