わが国の海外派遣労働者の数は増加傾向にあり,特に近隣アジア諸国への日本企業の進出はめざましく長期滞在者も多い.中国への長期滞在の場合,査証取得にあたり国公立病院発行の健康診断書の提出を義務付けていることから,当センターでは多くの中国渡航前健康診断の依頼を受けている.今回我々は当センターにおける中国渡航前健康診断の現状を紹介し,海外派遣労働者への健康診断のあり方について考察する.方法:対象は2005年10月から2006年3月までに当センター渡航者健康管理室を受診した2,138名のうち,中国査証取得目的で受診した428名を対象とし,中国政府指定の健康診断書の項目に基づいて行った健康診断結果を解析した.結果:受診者のうち男性は290名,女性は138名で,平均年齢は36.7歳であった.滞在都市は上海,北京,大連の順で,滞在期間は3年間が最も多かった.健康診断による異常所見では心電図によるものが目立ったが,新たな治療を必要とするものではなかった.しかし肥満が19%にみられ,メタボリックシンドロームの可能性がきわめて高いと思われる赴任者もみられた.結論:海外派遣労働者に対する健康診断は経過観察が困難であるうえ,現地における食生活や環境の変化による慢性疾患の悪化が重要な問題である.各企業の産業医が中心となり,フォローアップ体制の強化ならびに渡航前健康診断の充実化を推進する必要があると考えられた.
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