【目的】 回復期リハビリテーション病棟(以下、回リハ病棟)において、患者の約40%に低栄養が認められており、ADLの向上や在宅復帰のためには運動療法のみならず、適切な栄養管理が必要であると知られている。
日本慢性期医療協会
によると食事摂取率の割合において50%以下の例もあるとの報告がある。山田らは、フレイル患者において朝食、昼食、夕食でのタンパク質摂取量のばらつきがみられ、朝食時にタンパク質摂取が少ない傾向がみられていたと報告している。そこで本研究の目的は回リハ病棟での食事摂取率が入退棟時の身体機能(Short Physical Performance Battery;以下、SPPB)へ及ぼす関連について調べることとした。
【方法】 2021年9月~2023年1月までに当院回リハ病棟へ入棟され、入退棟時にSPPB評価をした39例(男性14名、女性25名、平均年齢80.25±13.3歳)を対象とし、評価のデータ欠損がある者は除外した。基本情報は年齢、身長、体重、BMI、採血data(T-P値、Alb値)、入棟日までの期間、入棟日、退棟日、必要栄養量(エネルギー量、タンパク質量)とし、診療録より後方視的に調査した。身体機能の指標として入棟時と退棟時のSPPBを算出した。栄養指標として副食の食事摂取率(朝食、昼食、夕食)を診療録より後方視的に調査した。食事摂取率は朝食、昼食、夕食それぞれ3群の副食を0~10割で評価した。また3群の入棟日から2週間の平均値を食事摂取率の平均値として算出した。
統計学的解析はEZRにて食事摂取率の平均値をそれぞれ3群に対してKruskal-Wallis rank sum検定を行った。基本情報、食事摂取率の平均値、SPPBでSpearmanの順位相関係数またはPearsonの相関係数を求めた。統計学的解析の有意水準は5%とした。
【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は研究の意向を十分に説明し、研究発表に対して理解及び協力を得た上で、ヘルシンキ宣言に沿って行い、当院の倫理委員会の了承を得た。
【結果】 副食の各食事摂取率の平均値はそれぞれ朝食7.60割、昼食7.66割、夕食7.95割であり、3群間に著明なばらつきはみられなかった(p値=0.544)。朝食の食事摂取平均と退棟時SPPB(8.12±3.57点)に有意な正の相関を認めた(r=0.379、p値=0.0174)。また年齢と退棟時SPPBに有意な負の相関を認めた(r=-0.481、p値=0.00192)。朝食の食事摂取率の平均値と基本情報(年齢、T-P値、Alb値、体重、BMI、入棟までの期間)には相関を認めなかった。
【考察】 入棟より2週間での朝食、昼食、夕食での副食の食事摂取率は有意な差はみられなかった。その要因は在宅と異なり、入院では栄養管理・指導など医療スタッフによる支援があるためと考えられる。今回、朝の食事摂取率が高いほど、退棟時のSPPB合計点が有意に高く、朝の食事摂取率が退棟時の身体機能改善や身体機能維持に影響を与えている可能性があると考えられた。これは先行研究と同様に入院時の栄養状態が高いほど退院時のADL能力が高いことが示唆された。術後の侵襲や炎症、消費エネルギー等で代謝が亢進すると、たんぱく質の異化亢進よりたんぱく質の必要量は増加する。今後は体重あたりの必要たんぱく質量を回リハ病棟の特性や疾患の状態等に合わせ、管理栄養士との連携強化も重要である。また年齢と退棟時SPPBで負の相関を認めており、高齢で、食事摂取率が少ない方は身体機能への影響が考えられ、朝食の食事摂取率を増やすことも重要であると考えられる。また今回は入院患者を対象としており、退院後の生活の栄養管理や運動管理等が不十分となる事が考えられ、身体機能維持や向上のために入院中の管理を継続することが必要となることも示唆されたと考えられる。
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