【目的】
近年、健康増進を目的として中高年者に対して音楽に合わせ体を動かす、いわゆる踊りを取り入れる傾向が強い。今回我々は、
日本舞踊
の運動特性、ならびに健康増進運動としての有用性について、坂東流家元、同流名取の方々の協力から、運動生理学的に調査する機会を得たので報告する。
【方法】
対象は
日本舞踊
熟練者8名(男性1名女性7名、年齢20歳~60歳平均47.9±14.0、身長150~167cm平均157.4±5.9、体重44~67kg平均56.0±6.7)と
日本舞踊
経験のない女性2名(年齢23歳、身長158cm、体重50kg・年齢25歳、身長162cm、体重55kg)とした。検討項目は第1に筋電図学的検討とし日本光電社製筋電計マルチテレメータWEB-5500を用い、経験者舞踊中、未経験者の稽古中の筋活動変化とスクワット動作との比較、ならびに、未経験者1名の稽古前後について歩行時の筋活動変化の差を調査した。測定部位は左右腹直筋、左右脊柱起立筋、片側広背筋、片側内側広筋、片側腓腹筋とし、広背筋と内側広筋および腓腹筋は対側とした。第2の検討は舞踊中の体幹運動(頚部、胸部、腰部)であり、friendly sensor社製、携帯式動作計測装置sonoSens Monitorを用い計測・調査した。第3の検討項目はCORTEX社製呼気ガス代謝モニター、メータマックス3Bを用い運動強度、消費エネルギーについて調査した。
【結果】
筋電図学的検討から、未経験者では稽古動作でありながら腹直筋の明らかな活動が認められたのに対し、舞踊熟練者においては動作の変化にかかわらず、腹直筋の活動が比較的低レベルであった。また、内側広筋、腓腹筋の活動は、多くの舞踊でスクワッティング動作を超える活動が認められた。舞踊未経験者の稽古前後での歩行では、稽古後、立脚後期での内側広筋の活動の増加が認められた。舞踊中の身体運動は、随意的最大可動域に対しどの舞踊も最大の40%未満であった。運動強度は舞踊中4.1~6.9METS、HRmaxは76.2~83.2%。稽古中では2.6METS、HRmax52.8%であった。
【考察】
筋活動の観察から、中高年で不足すると言われる内側広筋を使う運動としての有用性が示唆された。体幹部の筋活動の観察から、体表上から確認できる筋以外の活動が推測され、今後の検討が必要と考える。体幹運動の調査から、運動域拡大を目的とした運動として適するとは言い難いが、過剰な運動負荷となり難いものと考えられる。運動強度は、通常歩行時(3~4METS)と比較しても、適切な運動負荷を個別に選択できるものと推察される。
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