1.はじめに
千葉県木更津市と神奈川県川崎市を結ぶ
東京湾アクアライン
は,1998年の開通当初は料金の高さによって利用者が少なかったことで,木更津市やその周辺地域では居住人口の増加や企業誘致が進まず,地域経済は停滞した.しかし料金の値下げ以降は通行量も増加し,木更津市ではモータリゼーションの進展,人口の増加,大規模商業施設の立地など,様々な変化がみられる.本研究では,アクアライン開通後の木更津市を対象に,主に通勤行動や大規模商業施設の立地の変化に着目してその地域的特徴を明らかにするとともに,現在抱えている地域的課題について考察する.
2.木更津市の人口動態と通勤行動の変化
木更津市では,2005年以降,人口の高齢化が進んでいるものの,人口数は回復傾向にある.アクアラインの低料金化に伴い,これを利用して東京の都心部や川崎市・横浜市といった京浜地域への通勤者が増加している(図1).この背景には,都心から35km圏に位置する他地域と比べて住宅価格が安いことや,東京の都心部および京浜地域へ向かう通勤用の高速バスが開設されたことがあげられる.この高速バスは料金・通勤時間・快適性の面で電車通勤と比べても利点がある.また,自動車を高速バスのバスターミナル付近の駐車場に止め,バスを利用して通勤するといったパーク&ライドシステムも確立している.
3.大規模商業施設の立地と中心市街地の課題
中心市街地内に立地するイオンタウン木更津朝日には市役所が入居しており,市民生活における利便性は向上し,イオン側にとっては固定客の確保につながっている.共用空間は,数多くの高齢女性のグループによって利用されており,コミュニティの維持にも寄与している.またイオンタウンが運営する無料送迎バスは中心市街地を巡回するため,高齢者の移動の足としても機能しているが,並行するバス路線は採算がとれず,木更津市の補助金で維持している.また民間企業が運営するバスであるため,市民に対する積極的な広報が難しい.
JR木更津駅から2.5km程離れた場所に位置するイオンモール木更津は,同企業のショッピングセンターの中でも賃貸面積ベースで国内第4位の規模を有する.2014年の開業当初から木更津市と連携協定を結んで月1回の定例会議を行い,様々な年齢層に向けた木更津市主催のイベントに対して場所を提供している.市にとっては市民の買物環境の向上,定住人口の増加,財政の改善,雇用の増加に寄与しており,イオンにとっては幅広い年齢層の集客に寄与している.
一方,中心市街地に立地する店舗の経営状況は厳しく,飲酒を中心とした店や高級志向の飲食店など一部の店舗を除いて売り上げは減少傾向にあり,多くの業種で大型店進出の影響を受けている.木更津市は「街なか居住」政策を推進しているが,スーパーやドラッグストア等が少なく,中心部の居住者はコンビニエンスストアで買い物を済ませる場合も多い.イオンは既に木更津市内に3店舗の系列店が立地するため,競合を回避するために新規出店には消極的であるが,木更津市とイオンとの結びつきが強いためにイオン以外のスーパーの誘致も難しい.
4.まとめ
木更津市は,
東京湾アクアライン
利用の低料金化により,バスを利用して東京都心や京浜地域へ通勤する居住者の増加がみられるが,大型商業施設に依存した地域構造となり,中心市街地の買物弱者問題に対して解決策が見いだせない状況にある.
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