2種のヒドロキシアパタイト(HAP,2g/dl)を種々の濃度の硫酸ドデシルナトリウム(SDS),硫酸ナトリウム(Na
2SO
4),塩化ナトリウム(NaCl)の水溶液に懸濁させ,溶解平衡,吸着平衡,イオン交換平衡に達したのちに母液中のリン酸イオン濃度[Pi]とカルシウムイオン濃度[Ca
2+]とを測定して,HAPの見かけ上非化学量論的な溶解について検討した.[Pi]を増大させる添加電解質の序列はNaC1<Na
2SO
4<SDSとなった.SO
42-とPO
43-とはイオンのサイズが似ている.そのために同形置換機構に基づくイオン交換作用によってSO
42-がHAPへ取り込まれやすくなるので,NaCl添加のときよりもNa
2SO
4添加のときの方が[Pi]が大になると結論した.硫酸ドデシルイオン(DS-)の場合には末端の親水基(-SO
4-)が同形置換機構(すなわちイオン交換)によってHAPへ吸着されるとともに,DS-の炭化水素間の疎水性相互作用と協同効果によってもDS-のHAPへの吸着が促進される.そのためHAPのDS-吸着量はSO
42-の吸着量よりも大になると考えられた.HAP表面へのDS-の吸着量が大になるとHAP表面の負電荷も過剰となるので,それを緩和するためにHAP表面からのPiイオソの放出がSO
42-の場合よりもさらに促進された.一方,[Ca
2+]を増大させる添加電解質の序列はSDSの臨界ミセル濃度(cmc)以下においてはSDS<Na
2SO
4<NaClとなり上述の[Pi]を増大させる序列とは逆転した.これはHAPの溶解度積が一定に保たれるようにPiとCa
2+とが溶出するためである.しかしcmc以上ではミセルがCa
2+を捕捉するので,SDS添加濃度と共にCa
2+の溶出全濃度[Ca
2+]は大となった.
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