酢酸フェニール水銀 (PMA) 中の水銀で汚染された飼料を乳牛が摂取すると, その乳牛から生産された牛乳へ水銀が移行するおそれがある。 この点を解明するために, 泌乳中の山羊および乳牛を供試し,
203HgでラベルしたPMAを1回およびくり返し (5回) 経口投与, さらに1回血中投与を行ない, 水銀の体外排泄, 臓器への残留, 乳汁への移行をしらべた。
経口的にはいったPMAに由来する水銀の大部分は, 糞 (投与量の70~85%) に, ついで尿 (2~5%) に排泄された。 乳汁への移行量はわずかながら (0.2~0.8%), 長く続いた。 臓器における残留では, 腎臓が肝臓より量も多く濃度も高かった (腎, 肝あわせて3~10%) 。 脳組織にはわずかしか残留しなかった (0.02~0.03%) 。
血液経由でPMAが体内にはいると, 水銀の体外排泄は大部分糞であるが, 量的には経口の0.6倍程度であり, 尿は経口の場合より若干増加した。 乳汁への移行量は0.6%程度で, ほぼ同じであった。 臓器では, 腎臓が肝臓より量も多く濃度も高いのは, 経口の場合と同様であったが, 全体量では2~6倍多かった。 脳組織にはわずかしか残留しなかった (0.02%) 。
投与量の約2分の1が体外へ排泄される期間は, 経口投与で2~3日, 血中投与で20~25日であった。
以上の結果から, PMA中の水銀の乳汁への移行は, 量的にはわずかであるが, 長く継続することが明らかになった。 乳汁中にあらわれる水銀は, とりこまれた水銀が直接移行するほかに, 母体の腎臓, 肝臓に蓄積していた水銀からも移行すると考えられる。
抄録全体を表示