N,N′-二置換ジチオオキサミドを純水表面または硫酸銅水溶液表面に単分子膜として展開し,両者の水面での単分子膜としての流動性の差,累積過程の型や安定性の差を,Riesの回転円筒法で検討した。すなわち,単分子膜の表面に少量の石松子粉末を線状に撒布し,円筒の一定回転角ごとに線の動きを容器の底部に設けた座標とともに,写真撮影した。その結果純水面上では,二次元的巨視的な「辷り」の存在を推論させる流紋(ffowpattern)を観察することができた。これは配位子が擬結晶状態にあり,分子間の力はそれほど強くはないが遠距離秩序があるためと考える。硫酸銅水溶液面上では,石松子線はあたかも伸縮性のある1枚の膜の一部分が引っ張られて変型して行くのに随伴しておるかのような様相を呈する。すなわち配位子を配位結合による銅イオンとの結合を介し隣りの配位子と強く結合し,近距離秩序が膜の流動性にとって支配的である。これはバルク相における配位高分子の生成とも符合する。この回転円筒・石松子・写真法は水面における膜の順調な補給(流動)や膜自体の塑性,粘弾性を視認できるので,機能性薄膜の累積技術として一般的方法であると認められる。
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