目的 これまでの研究において、中学生で学習する洗剤の選択について検証したところ、「特定の課題に関する調査」(国立教育政策研究所 2007)と同様に、毛のセーターを洗う時に使う洗剤として正答である中性の合成洗剤ではなく
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や弱アルカリ性の合成洗剤・石けんを選択する生徒が多くいることが明らかとなった。その後、
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には洗浄効果がないことを視覚的にとらえることができる実験と、毛のセーターを洗う時には綿や合成繊維を洗う時とは異なる洗剤を用いることが各家庭の状況から主体的にとらえることができるグループワークを実践したところ、
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を選ぶ生徒は減ったものの、弱アルカリ性の合成洗剤・石けんを選ぶ生徒は減らなかった。そこで、本研究では、
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に関する実験教材と合わせて、毛を洗う時に適する液性の理解を促す実験教材を用いることによる、繊維の種類に応じた洗剤の適切な選択への効果について検討することを目的とする。
方法 2014年6月に、神奈川県内公立中学校の1年生4クラス132名(男子65名、女子67名)に対し、洗濯に関する中学生の意識・知識について質問紙調査を実施した。
また、2014年6月・7月に同中学校1年生4クラスをAグループ(2クラス)・Bグループ(2クラス)の2グループに分け授業実践を行った。それぞれの授業後に質問紙調査を実施した。
授業実践では、1)
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には洗浄効果がないことを視覚的にとらえることができる実験、2)毛を洗濯するときにはアルカリ性の液体は不向きであることを視覚的にとらえることができる実験、の2つの実験を行った。
1)については、50mm四方の綿ブロードを酸性染料で染めたもの(0.075%、90℃、2分間浸透)を汚染布として用い、水のみ・標準濃度の
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・標準濃度の洗剤の3種類の液体100mLをそれぞれ500mLのペットボトルに汚染布とともに入れて2分間振り(120回/分)、汚れの落ち具合を比較した。
2)については、長さ30mmの綿・アクリル・毛の3種類の毛糸を用い、中性洗剤とアルカリ性の液体(次亜塩素酸ナトリウム)2mLをそれぞれ50mLのビーカーに3種類の毛糸とともに入れて、毛糸の変化を比較した。
どちらの実験も4~5人/班で行った。Aグループは1)→2)の順に、Bグループは2)→1)の順に行い、それぞれの実験の効果について検証した。
結果および考察 上記1)の実験については、実験前後の汚染布の比較から、汚れ落ちの程度として、
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<水<<<洗剤であることが確認できた。また2)の実験については、アルカリ性の液体中で毛の毛糸のみが反応したことから、毛にはアルカリ性の液体は不適であることが確認できた。
それぞれの授業後に質問紙調査にて毛のセーターを洗う時に適する洗剤を選択させたところ、Aグループは1)の後に
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を選択する生徒が、2)の後に弱アルカリ性の合成洗剤・石けんを選択する生徒がそれぞれ減り、Bグループはその逆であることが確認された。よって、2つの実験が、1)は洗剤と
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との相違について、2)が洗剤の液性について、それぞれの理解への効果があり、繊維の種類に応じた洗剤を適切に選択できるようになるためには、両方の実験が不可欠であることが示された。
洗剤を適切に選択できるようにするためには
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や漂白剤についても学習したほうがよいことはこれまでの研究で述べてきた。酸性・中性・アルカリ性については小学6年生の理科ではじめて学習するが、他の分野と比較して理解度が低い児童が多いことから、中学校の家庭科においても実験教材等も含めてより詳細に学習することが望まれる。
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