本研究は,日本における有機農業の展開実態を明らかにしながら,有機農業を地域農業振興として位置づけていく上での課題について考察することを目的とした.日本の有機農業は,「産消提携」による社会運動として始まったが,1980年代を境に,多様な流通主体が関わりをもつようになった.それに伴い,農林水産省は,有機農業振興ではなく有機農産物の表示規制を強化してきた.現在の日本では,主に北海道,東北地方,関東地方,九州地方において,国の「エコファーマー制度」や都道府県の認証制度を活用した取り組みが普及してきている.しかし,経営リスクが大きい一方で,そのリスクを補填する販路の確保が難しい.また,表示認証制度が複雑化しており,消費者の有機農産物への理解が必ずしも充分ではない.それゆえ,有機農業の展開は「点」的存在であり,「面」的な拡がりにはなっていない.有機農業を地域農業振興に位置づけていくためには,経営リスクを低減する技術開発や新たな支援政策の実施が不可欠である.「有機農業推進法」や環境直接支払制度などの新制度に期待したい.また,それを支える消費者の農業,食材に対する関心,評価のあり方が問われている.
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