1.はじめに
近年,日本のバス事業者を取り巻く環境は年々厳しさを増し,輸送人員,総路線数ともに減少傾向を示している.独立採算制を原則として運営されてきた公営バス事業も,厳しい経営環境に置かれている.この状況を受け,公営事業者は大規模なバス路線の再編に着手してきた.横浜市交通局(以下,市営バス)は,2006年度に大規模な路線再編を行った.当初は民間移譲を一部のみとし,多くの路線を廃止する計画であったが,最終的に廃止対象路線の多くに救済措置が採られた.しかし,一部は暫定運行路線として,2年後の廃止を前提とした路線の救済であるため,路線の廃止のよって住民の移動行動に影響を与える事が予測される.これまで,廃止が予定されている公共交通に対して利用者の視点から実態調査がなされる事は稀であった(土`谷:2008).
そこで,本研究では市営バスの暫定運行路線に着目し,暫定運行路線の利用状況を明らかにするとともに,暫定運行路線の廃止による沿線住民の移動行動への影響を把握する事を目的とする.
2.調査概要
暫定運行路線の各路線ならびにバス停ごとの乗車人員について,「通過人員表」を用いて分析した.その結果,291系統が1便で1キロ当りに輸送する人員,暫定運行路線しか停車しないバス停の乗車人員ともに多いため,291系統の廃止が,沿線住民に対して最も影響の大きいものであると判断し,291系統の沿線住民に対し,利用状況の調査を行なう事とした.
調査は,暫定運行路線しか停車しないバス停より半径300mの居住者を対象とし,性別,年齢等の諸属性と,利用目的,利用頻度などの291系統の利用状況,および291系統以外の利用交通手段,主要な目的地などについて,ポスティングによるアンケート調査を行なった.その結果,865人からの有効回答が得られた.
3.調査結果
291系統を利用する事があるとした回答者(以下,利用者)は全体の59%で,まったく利用しないとした回答者(以下,非利用者)の41%より多い.高齢者ほど利用者が多く,若い世代ほど少ないが,若い世代でも20歳代以外で40%以上が利用者である.利用者のうち,週に3回くらいの利用者が21%で最も多い.また,82%が月に1回以上の利用者である.最大の利用目的は買物で,次いで通院である.利用頻度も通院,買物の順で高い.通院や買物は生活に欠かせない行動と考えられる.従って,291系統は日常的な移動手段として頻繁に利用される,重要な移動手段であると言える.
291系統の利用者のほとんどは,横浜駅西口への利用である.他系統のバスを利用するとした回答者は,利用者の75%で,その多くが291系統と同じ横浜駅西口への利用である事から,目的地に関しては,291系統が廃止されても著しく不便になる利用者は少ないと考えられる.しかし,その際利用すると回答したバス停は遠距離でも利便性の高いバス停,あるいは高低差の少ないバス停の傾向があるため,291系統の廃止により,遠距離を移動する必要性が増加すると考えられる.
291系統以外の移動手段として,利用者の徒歩の割合は非利用者より低い.また,利用者は非利用者に比べ,金銭的な理由等,消極的な理由で徒歩を選択している.そのため,291系統廃止によって徒歩での移動を余儀なくされる事は,利用者にとって大きな負担になると考えられる.
参考文献
土`谷敏治 2008.広島電鉄白島線の利用状況と利用者特性.日本地理学会発表要旨集(73):115.
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