佐賀医科大学附属病院においても, MRSAによる院内感染が頻発するようになった. その内分けを見ると, 1989年以前はコアグラーゼII型のMRSAが主流であったが1990年以降よりVII型のものが急増している. しかもこのVII型株は著しい多剤耐性化を示し, 薬剤感受性パターンが他施設で分離されるMRSAと異なるため臨床上問題になっている. そこで当院のMRSAによる感染症が増加した背景について, 疫学的な調査を試みた.
(1) MRSAの年次別検出頻度 (一患者一株) は全黄ブ菌に対して1986年度26%, 1988年度23%, 1989年度37%, 1990年度30%, 1991年度60%であり, 特に1991年度で急激な増加が認められた.
(2) VII型MRSAは1989年度に初めて5名の患者に認められ, 以後増加の傾向を示し1991年度では検出したMRSAの47%が本タイプ (恐らく同一株由来) であった.
(3) VII型MRSA株について薬剤感受性パターンおよび疫学的調査を行ったところ, 院内で蔓延している株は, CLDM・EM感受性, IPM/CS・MINO耐性, TSST-1非産性およびエンテロトキシン非産生またはA型の2タイプであった.
(4) VII型MRSAは, 本菌の蔓延している病棟の医師, 看護婦および病室の環境からも, 同一と思われる株が検出された.
(5) 院内のMRSAの動態については, MRSA自体の種類が増えたのではなく, 限られた数の菌株が集中的に増加しているものと推察された.
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