プロダクト・デザイナーがどのようにコンセプ卜を策定し,造形を実現していくのかはほとんど知られていない。政策学には,政府の政策過程を理解するための知識や理論が欠かせないものの,これらでは創造性を育みそうにはなく,プロダクト・デザインヘの注目が,問題解決学への導入として役立つのではなかろうか。
アイディアやスケッチのような創造的側面を重視した政策デザイン論は,すでに足立幸男が提示している。しかし,その主題は政策形成のための倫理的なガイドラインであり,創造性はあまり論じられていない。本稿は,プロダクト・デザイナーの著作(逸身健二郎,原研哉,
深澤直人
による)と対比させて,導入教育的な政策デザインを考えてみたい。
プロダクト・デザインと公共政策がどう関係するのかは疑わしいかもしれないが,本稿は次の3点から,プロダクト・デザインが政策学への基礎能力を育むのに役立つと考える。
第1に,政策デザイン論ではデザインの定義が包括的に過ぎ,組織的分業を考慮できていない。そのため,政策デザイナーの実像を想像しがたい。第2に,プロダクト・デザイナーは状況要因を特定して問題の必然的な輪郭を見出しており,このことは,複数の選択肢を決定権者に提示するという政策学の主要な前提に疑問を投げかける。第3に,シンプルで機能的な美をめさすモダン・デザインは,理性や科学への過剰な信仰とも,むき出しの私益追求の肯定とも異なる。公共的な要請と私的な生活場面の意味とを媒介し,社会規範の基礎に影響を与えうる。
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