【背景・目的】筋萎縮の病態を明らかにし、筋萎縮に対する効果的な理学療法の開発を行うために、動物の筋萎縮モデルが用いられる。筋萎縮モデルには、神経を切除した除神経モデル、後肢に負荷がかからないようにする尾部懸垂モデル、関節の動きを制限する不動モデルなどがあり、モデルによる特性の違いを知る必要がある。一方、筋萎縮時には、筋核のアポトーシスが起こる。アポトーシスによる筋核の減少は、筋萎縮と関連があると考えられている。しかし、筋萎縮モデルの種類と筋核のアポトーシスとの関係は調べられていない。そこで、本研究では除神経モデルと尾部懸垂モデルに着目し、両モデルと筋核のアポトーシス発生頻度について検討した。
【方法】本研究は本学動物実験委員会の承認を得て行った。8週齢Wistar系雄性ラット23匹を、除神経群(坐骨神経切除、n=6)、偽手術群(坐骨神経露出のみ、n=6)、尾部懸垂群(懸垂し後肢が床に接地しない、n=6)、偽懸垂群(懸垂し後肢が接地する、n=5)に無作為に分け、実験開始2週間後にヒラメ筋を採取し、凍結切片を作成した。凍結切片に対し、H-E染色を行い筋線維断面積を測定し、萎縮の評価を行った。別の凍結切片に対し、TUNEL染色(アポトーシス核)、DAPI染色(核)、dystrophin染色(形質膜)の三重染色を行い、アポトーシスを起こしている筋核の評価を行った。DAPI染色で染まり、かつdystrophin染色により筋線維内にあると判断された核のうち、TUNEL陽性核数を測定し、筋線維1000本あたりの数に換算した。
【結果】除神経群の筋線維断面積(831±295μm
2)は、偽手術群(2581±596μm
2)に比べ67.8%小さかった(p<0.01)。尾部懸垂群の筋線維断面積(1310±222μm
2)は、偽懸垂群(2106±177μm
2)に比べ37.8%小さかった(p<0.05)。なお、除神経群の平均筋線維断面積は、尾部懸垂群より479μm
2小さかったが、有意な差はなかった。一方、除神経群のTUNEL陽性筋核数(9.1±3.9個)は、偽手術群(0.9±1.2個)に比べ多かった(p<0.01)。尾部懸垂群のTUNEL陽性筋核数(2.2±1.4個)は、偽懸垂群(0.6±0.4個)と有意な差はなかった。除神経群のTUNEL陽性筋核数は、尾部懸垂群に比べて多かった(p<0.01)。
【考察】筋核のアポトーシス数は、除神経モデルでは増加したが、尾部懸垂モデルでは増加しなかった。よって、除神経モデルでは、アポトーシスをきっかけとした萎縮のメカニズムの関与が考えられた。一方、尾部懸垂モデルでは、アポトーシス以外のメカニズムにより萎縮が発生していると考えられた。筋萎縮モデルは、このようなモデルによる特性の違いを十分考慮したうえで選択する必要があると考える。
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