多国間環境交渉の過程では,交渉の主要アクターの一つである国家が連合を形成することが多い。連合理論では,連合は獲得目標などを共有する国が形成するとされるが,実際の交渉では,先行する他の交渉において形成された連合と同じグループでの情報交換や,地域グループでの意見のまとめを求められる事例があり,必ずしも連合理論による連合のみが交渉過程で見られるわけではない。
本研究では,気候変動枠組条約,水銀条約交渉に至るまでの国連環境計画(UNEP)における国際交渉,二酸化炭素海底下地層貯留に関するロンドン条約議定書改正を事例として,交渉過程で各国が形成したグループや連合について比較し,多国間環境交渉における連合の有効性について議論した。
本研究において選択した事例では,当該交渉における各国のinterestを共有する連合が見られた。水銀条約の事前交渉において形成されたLike-Mindedグループは,当該連合を形成した国の間で協調行動が見られ,法的拘束力のある枠組の構築というinterestを追求する上で各国の助けとなった。また,連合の形成によって主張内容が明確になることにより,交渉の予定や成立の見込みの不透明さを軽減した点で,交渉の進展にも有効であったといえる。ロンドン条約議定書交渉における北東大西洋の海洋環境保護に関する条約(OSPAR条約)締約国の連合のように,他の交渉における連合が経験的・慣例的に適用されたとしても,当該交渉におけるinterestが共有できるならば,連合を形成する国にとっても,また,他国にとっても,交渉の促進に寄与することが示唆された。
逆に,国連(UN)地域グループなど,慣例や他の交渉において発生した,各国のidentityやinterestに立脚しないグループは情報交換の場となるのみであり,交渉の進展への寄与は小さく,人的・経済的資源が有限である前提で,むしろ交渉の進展を阻害する可能性も示唆された。
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