消化管の粘膜上皮細胞から分泌されるムチン
糖タンパク質
は,分泌される消化管の各部位ごとにその性状が異なっている上に,同一部位でも不均一である。最近,消化管の癌や炎症との関係からムチン
糖タンパク質
に強い関心が払われるようになってきたが,このムチン
糖タンパク質
の構造と機能の関係は十分に解明されてはいない。大腸を中心としたムチン
糖タンパク質
の概要は以下の通りである。
1)分子構造
ムチン
糖タンパク質
は分子量約100万のサブユニットが重合し,分子量数100万から1,000万を越す巨大分子として存在する。消化管の中では大腸のムチン
糖タンパク質
の分子量が最も大きい。一つのサブユニットは分子量数10万のコアタンパク質(芯となっている部分)に,分子量数100から5000の糖鎖が100本以上結合している。コアタンパク質は,セリン,トレオニン,プロリンを約50%含み,これらのアミノ酸は糖鎖を結合している部分に多く局在している。
糖鎖は,N-アセチルガラクトサミン,N-アセチルグルコサミン,ガラクトース,フコース,シアル酸よりなる。この糖鎖はいずれもN-アセチルガラクトサミンを介して,コアタンパク質のセリン(またはトレオニン)にO-グリコシド結合で結合している。糖鎖の長.さは,大腸のものが上部消化管のものより長く,且つ,コアタンパク質により密に結合している。この糖鎖は中性糖鎖(酸性基を含まない,ABO式血液型活性を担っているものがある)と酸性糖鎖(シアル酸や硫酸基を含む)に分けられる。酸性糖鎖,特に,硫酸化糖鎖は大腸下部程糖鎖の中で占める割合が多くなっている。
この硫酸化糖鎖は抗菌性やタンパク分解酵素阻害活性が強い。
2)存在様式と生理的役割
これらのムチン
糖タンパク質
は,粘液成分として消化管腔へ分泌され,種々の物質と結合し,又,タンパク分解酵素阻害活性を有して粘膜を保護する役割を持つものと,粘膜上皮の管腔面を覆うゲル層を形成し,物質の選択的吸収を助け,又,タンパク分解酵素や細菌からの粘膜の直接的侵襲を防いでいるものの2種類存在する。両者の構造上の差異はまだ明らかになっていない。
3)病態
最近,癌病巣やその周辺粘膜においてムチン
糖タンパク質
の変化している事例が報告されている。又,癌に特異な糖鎖が見い出され,これに対する単クローン抗体も作成され,癌特異抗原としての診断的価値が高まっている。又,潰瘍性大腸炎やクローン病においても,ムチン
糖タンパク質
の糖鎖の異常が見い出されている。疾病状態と糖鎖の構造の変化が対応するということは,その糖鎖のもつ機能の上からも興味深い。
抄録全体を表示