地球生命の多様性は決して順調に増加してきたものではない。過去5億4千万年の間に5回もの大量
絶滅
イベントが発生し、その度に生物多様性は大きく減少してきた。5回の大量
絶滅の中でも特別に絶滅
の規模が大きかったものが、ペルム紀末大量
絶滅
である。ペルム紀末大量
絶滅
からの生物の回復は遅れに遅れ、500万年以上という長い時間を要している。講演者はこれまでに三畳紀末大量
絶滅
や白亜紀海洋無酸素事変2、白亜紀末大量
絶滅
などに取り組んできたが、その中でも特に、ペルム紀末大量
絶滅
、およびその直後の前期三畳紀を対象に、
絶滅
の原因と、その回復過程の解明に取り組んできた。ペルム紀末大量
絶滅
における科学的問いは、「ペルム紀末大量
絶滅
の原因として有力視されているシベリアの大規模火山活動は数十万年という活動期間であるのに対し、何故ペルム紀末大量
絶滅の絶滅
期間は約6±4万年という短い期間であるのか」、というものである。また、前期三畳紀における科学的問いは、「ペルム紀末大量
絶滅
から生物多様性の回復が遅れた原因が、単に、
絶滅
の規模が大きすぎて遅れたのか、それとも、前期三畳紀の間に環境悪化が繰り返し起こっていたために、回復が遅れたのか」、というものである。 これらの問いに答えるために講演者が活用してきたものは、堆積岩中に残された有機分子(堆積有機分子)である。堆積有機分子は、その有機分子の起源生物が特定できるものもあれば、地球表層環境における自然現象を表すものもある。前者はバイオマーカーと呼ばれており、例えば、緑色硫黄細菌が生合成するカロテノイド色素由来の有機分子などがある。緑色硫黄細菌は水圏において、硫化水素に富んだ有光層に生息しているため、緑色硫黄細菌由来のバイオマーカーが堆積岩から検出された場合、その堆積岩の堆積時に有光層の還元環境が発達していたことが示唆される。また、後者の例として、燃焼起源有機分子が挙げられる。燃焼起源有機分子は、有機物が不完全燃焼する際に生成される。そのため、燃焼起源有機分子が堆積岩から検出された場合、その堆積岩の堆積時に陸上において火災(森林火災やマグマの石炭層への貫入など)が発生していたことが示唆される。さらに、堆積有機分子を構成する炭素や硫黄などの元素の安定同位体比を分析することで、当時の物質循環への知見が得られる。 講演者はこのような堆積有機分子の性質を利用することで、ペルム紀末大量
絶滅
における大規模火山活動や前期三畳紀における炭素循環の乱れの原因、繰り返される海洋生態系崩壊と還元環境の発達、前期三畳紀末における微生物礁の成因などについて、明らかにしてきた。本発表では、これら堆積有機分子の記録から明らかになった事柄について、直近の進捗も踏まえつつ紹介する。
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