過去14年間 (1970~1983. 12) に各部位の閉塞性動脈硬化症 (以下ASO) 165症例237動脈に対して, 血行再建手術を行った. 下肢ASOが最も多く, 143例 (202肢) であった. 手術適応は, 69歳以下例では, 91%が間欠跛行例であるのに比して, 70歳以上症例では, 65%が, 急性動脈閉塞症あるいは高度阻血肢に対する救肢目的の手術であった. 間欠跛行例の入院死亡は1例 (移植血管感染) であったが, 救肢例では, 4例を失い内3例が70歳以上症例であった. 死亡例も含めて救肢率は57%であった. 間欠跛行例の早期閉塞例はなく, 大動脈腸骨動脈閉塞症の解剖学的バイパス術における5年開存率は80%と良好であった. 動脈硬化による
腎血管性高血圧症
は, 18症例で, 20腎動脈に再建手術を行った. 全例高度の高血圧 (平均201/114mmHg) をともない, 7例が腎機能障害を呈した. 降圧効果は83% (15/18), 腎機能改善71% (5/7) であったが3例が術後血液透析を要し1例が腎不全死した. 腹部大動脈瘤は32年間 (1952~1983. 12) で, 250例を手術したが, 近年手術成績は著しく向上し, 1971年より1983. 12までの入院死は待期的手術例4.5%, 破裂例17%であった. 5年生存率は手術例62%, 非手術例16%と手術による延命効果は明らかであった. 非手術例の死亡原因のうち38%が破裂で最も多い原因であった. 以上の結果から以下の結果が得られた. 1) 間欠跛行例に対する手術は, 高齢者にその後の活動的な生活を提供する上で有効な治療法である. 2) 高齢者の急性動脈閉塞症は, 肢のみでなく, 時に生命の危険をともなう重篤な疾患であり, 成績はなお不良である. 3) 動脈硬化性
腎血管性高血圧症
に対する血行再建手術は高血圧治療上のみならず, 腎機能改善の上でも有効な治療法であるが, 高度腎機能障害例では, 術後の急性腎不全に留意すべきである. 4) 腹部大動脈瘤手術は待期的手術に関する限り安全な手術であり, 延命効果も明らかである. 従って本症の外科治療には積極的態度が望ましい.
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