12歳のKasabach-Merritt症候群の男児が食事の際舌を噛み,4日間出血をくり返したため千葉県こども病院血液腫瘍科を受診した。口腔出血のため歯科に対診を求められた。体幹と左上肢の広範囲に血管腫が存在していた。血小板数は11.4×10
4/μlと軽度低下を示し,その他の凝固系検査で播種性血管内血液凝固が認められた。舌尖端部にみられた長さ5mmの浅い傷を2針縫合し止血を確認し帰宅させた。しかし,翌日再度舌から出血を生じ食事摂取に支障を生じ血液腫瘍科に入院となった。カルバゾクロムスルホン酸ナトリウム,トラネキサム酸の投与が行われたが出血は持続し,第4病日に舌先端部を6針再縫合し止血した。しかし第6病日には元の傷の側方に小さなアフタが形成され新たな出血を生じた。そこで同部の縫合も行った。縫合により止血状態が得られても出血をくり返すことから,ヘパリン持続投与が開始された。その後再出血はなく,第14病日に抜糸し退院となった。Kasabach-Merritt症候群では,DICを伴っていても日常生活は支障なく過ごせることもあるが,一旦出血すると止血困難な状態に陥る。本例は小さな咬傷のため一般的には縫合を要さない程度であるが,DICがあることより縫合処置にもかかわらず出血をくり返した。一見矛盾するように思えるが体内での凝固系,線溶系の均衡を変えるべくヘパリンによる抗凝固療法が止血に有効であった。
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