東京の中流下層, あるいは中流の近隣集団内での伝統と社会的葛藤を用いた本分析は, 地域的伝統が, コミュニティ内で権力, 威信, 正統性を求める諸集団間の争いにおいて, どのように形成され, 具体化され, 操作されるかという問題に焦点を当てている。特に本論文は, 「伝統」というシンボルが近隣集団の行う例祭において創造され, 修正される方法を検証するものである。世代, 性差, 職業, 居住歴, 社会・経済的立場, 政治的提携, そしてもっと微妙な「好みの違い」に基づいて相対立している派閥は, 地域の伝統を左右しようとすることにより, その権威を近隣集団に誇示しようとする。すなわち伝統的諸要素のあるものを
選び取り
, それを解釈することによって, リーダーシップヘ足場を固めようとするのである。本論で主張したいのは, このような「伝統的」な出来事や諸制度の重要性は, 単なる歴史的な連続性の反映として理解されるべきではなく, 自分たちが歴史的に本当の伝統を代表しているのだと主張し, 社会的な場面に影響力を与えようとする, 様々な行為者間の葛藤や張り合いという現在的な社会的分脈において分析されなければならない, という点である。(編集部訳)
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