今日の印刷技術は文字を含む画像情報を機械的手段によって多数複製する技術であるとされており,(1) 原稿,(2) 版,(3) 色材,(4) 被印刷材,(5) 印刷機の5要素を含むシステム技術として組立てられている。従って印刷技術のイノベーションは, この5要素に関連する各技術分野からのテクノロジートランスファーによってなされるということができる。70年代には, 特に発展の著しかったエレクトロニクス技術の恩恵をうけて, 印刷システムも大きく改革された。この改革は印刷物品質の高度安定化をもたらすことになったが, 同時に人件費の節減, 省力化, 作業能率の向上, 公害防止など, 一言でいえばコストの低減が最大のモチベーションであった。すなわち, 人件費等の節減によってトータルコストを低減することができるならば, 多少の資源の無駄, エネルギーの無駄もいとわない, という態度で, 見方をかえれば資源, エネルギー浪費型への転換ともいえるものが多かった。
80年代には省資源, 省エネルギーを第1の目標として開発されつつある新技術が印刷技術のなかに多くとり入れられることになるであろう。もちろん, そのためにトータルコストが増大するようでは受けいれられない。
印刷用銀塩感材は画像形成システム中の中間媒体であり, 消耗品であるが, これがなくては現在の製版, 印刷システムは成り立たない。しかし銀資源は有限である。銀塩感材の大ロユーザーである印刷業界でも, 資源浪費につながる中間媒体をなるべく少くして, 望ましくはこれを全く不要にする製版システムの研究, 開発が急速に進展するものと予想される。
コンピューターは印刷技術の応用によって製作されたLSI, 超LSIを用いて70年代後半には急速な進歩をとげ, あらゆる分野においてたいへん身近な存在となった。印刷システムにおいてもコンピューターの果す役割は今後更にそのウェイトを増してくるであろう。80年代には,原稿-印刷版-最終複製物が完全に直結した, いわゆる中間媒体のない製版, 印刷システムが当然のこととして受け入れられるようになると思われる。
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