Ⅰ.研究の背景と目的
近年,地理学,社会学,建築学,歴史学など多分野において盛り場研究が行われている.盛り場とは「恒常的に多数の人びとが集まる地域」であり(吉見 2007),地理学においては都市地理学や商業地理学において盛り場に様々なアプローチがなされてきた.
地理学における盛り場研究は都市内部における盛り場の機能や役割を明らかにすることから始まった.施設の種別,その立地や構造・機能などについてはかなりの成果をあげてきている.しかしながら,これらの研究は都市内部における盛り場の階層構造や,周辺地域の変貌が盛り場に及ぼした影響を究明したものであり,都市の発展における盛り場の機能的役割の実証的研究はみられない.
そこで本研究では、地方都市の都市機能に果たす盛り場の役割を明らかにすることを目的とする.事例として,北関東でも有数の盛り場を有する茨城県土浦市をとりあげる。研究の手法としては,盛り場とその周辺の土地利用調査,土浦市中心市街地に立地するビジネスホテルおよび不動産店への聞き取り調査をおこなった.
Ⅱ.分析の結果 1) 地方都市における盛り場の立地
土浦市の盛り場は明治時代に設置された遊廓に端を発し,昭和戦中期の海軍航空隊需要によって発展した.全国の他の地域では盛り場が駅前から郊外等へ移転しているケースがみられるが,土浦市においては明治時代から現在に至るまで大きな変化はなく,常磐線の土浦駅前に立地している.また,盛り場の立地の特徴として,
風俗店
と一般小売店,飲食店等が混在していることが指摘できる.
2) 盛り場の存在が地方都市におよぼす影響
土浦市は1970年代まで茨城県最大の商都であり,周辺市町村から多くの買い物客が訪れていた.しかし1985年のつくば万博開催にともなう土浦高架道の建設や2005年のつくばエクスプレス開通により,次第に商業の中心はつくば市へと移行し,土浦市の商業機能は衰退していった.
そうした中で近年,土浦市においては宿泊機能が発展している.2005年頃より土浦駅東口を中心にビジネスホテルが増加した.ビジネスホテル利用者は周辺工業団地等への出張のために車および常磐線を利用して土浦市を訪れ宿泊する単身男性が中心である.こうした人々がつくば市ではなくあえて土浦市に宿泊する理由のひとつに,土浦市の盛り場でナイトライフを楽しむため,というものがあることが明らかになった.
また,ビジネスホテルの増加は,土浦駅西口の居酒屋等の飲食店増加につながった.更に,盛り場に遊びに来た客が定食屋や居酒屋で飲食をすることや,
風俗店
において出前をとることがあることからも,盛り場の存在は飲食機能に影響を及ぼしていると言える.
本研究により,盛り場が地方都市において,宿泊機能や飲食機能といった都市機能を下支えしていたことが明らかになった.また盛り場の存在は,盛り場を有する地方都市が宿泊機能等の面で周辺市町村に対して優位性を持つ要因のひとつとなっていることが考えられる.
【参考文献】
吉見俊哉 1987.『都市のドラマトゥルギー ―東京・盛り場の社会史―』弘文堂.
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