目的:筆者は、衣食住という従来の家庭科教材において、「高齢者の視点を加えることによって、その教材の学習がより深まると共に、高齢者理解も深まる」という仮説を立て、教材開発や授業実践研究を進めている。本報告では、大学生を対象として、地域の高齢者との交流活動を中心とした食生活学習を実施した結果について報告する。
方法:授業は、2002年度後期「家庭科教育法?」の最初の4コマにおいて計画した。第1時は学生だけで行い、事前調査と題材のオリエンテーション、グループ編成を行い、次時に地域の高齢者に食生活に関して尋ねたいことをまとめてもらう。第2時は交流第1回であり、地域の高齢者に学生のグループに分かれて入ってもらい、まず、前時に用意した質問に答えてもらう。そして後半では、高齢者の方から普段の食生活の中で疑問に思っていること等を出して頂いた(大学生の課題)。第3時は、前時に出た課題について大学生の方から調べた結果を説明した後、次時の調理実習の献立を皆で考える。第4時は調理実習と試食である。以上の学習は、学生(20名)と地域の高齢者(14名)が5つのグループに別れて、班別に行う。 授業分析の資料は、各時の活動について班別にまとめたレポートや調理実習の献立、学生の事前調査と各時の授業直後の感想文、高齢者の第3,4時の授業後の感想文である。
結果: 事前調査結果から、今回の受講大学生の「高齢者と聞いてイメージすること」は、特にプラス、マイナスに偏らず、比較的幅広いイメージを持っていることがわかった。
第2時(交流第1回)に、大学生は高齢者に「昔の食生活」「現在(高齢期に)気をつけていること」等を尋ねた。高齢者の話の中で大学生の印象に残ったことは、高齢者の好みや食生活上の注意事項より、昔の食生活(昔は捨てるところがなかった、戦後の食糧難等)や野菜やごまを自家栽培する話である。また、高齢者については「若い」「元気」等、食生活について「意識が高い」「知識があってすばらしい」と記述していた。
第3時(交流第2回)には、高齢者からの疑問に答えて大学生が調べたことを発表したが、十分準備をしていなかったグループの学生の感想では、高齢者から「教えてもらうことの方が多かった」と書いている。よく調べたグループの学生は、感想にもその内容や聞いてくれた高齢者の様子等を書いている。高齢者の感想では、学習した内容より学生たちの様子についての記述が多いことが特徴である。
第4時(交流第3回)の調理実習では、まず、各グループの献立には、第2,3時に話題になったこととの関連が見られる。例えば、グループ2の「
麦とろ
ごはん、すいとん」、グループ3の「豆腐のステーキ、酢の物、味噌汁、ご飯、フルーツヨーグルト」グループ4の「肉じゃが、なすの味噌炒め、みそ汁、ご飯、壬生菜のお浸し、蒸かし芋」である。グループ2の自然薯や、グループ4のみそや壬生菜、芋、さらにグループ1のごまは、高齢者の自家栽培のものである。学生の感想では、「話を聞きながら作った」「手際がよい」「意見味見をしながら作った」、また、初めて自然薯を擂ったこと、高齢者が持参してくれた朝取りの野菜で予定より一品増えたこと等の記述があった。高齢者の感想からは、大学生に何かを教えたというより、大学生と一緒に調査をしたこと自体を楽しんだことがわかった。大学生の食生活理解に関する深まりは、高齢者の昔の食生活についての話や、調理実習の時に持参して下さった自家栽培の野菜やごまを、一緒に調理して味わったこと等を通して、今日の大学生自身の食生活を見直すきっかけを与えてもらったようである。高齢者についての理解に関しては、塩分の取りすぎを、高齢者自身注意していながら、現実の味付けは濃いことに気づいた点などがある。
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