北海道においてノビタキ
Saxicola torquata は夏鳥であり,農耕地や自然草地において豊富に見られ採餌やさえずりにとまり場を利用する.(Nakamura
et.al.1968,Greig-Smith 1983,Fujimaki 964,Fujimaki & Takami 1986).ノビタキのハビタットの植生について簡単に説明した論文はあるが,なわばり内の植生タイプ構成や異なった植生タイプの利用については記述されていない.この論文はノビタキの行動圏の植生的な特徴と,異なった植生タイプの利用について記述した.
調査は1990年に北海道帯広市の南部,札内川河川敷(42°52′N,143°11′N)で行った.調査地を25m×25mの区画に分け,各区画を植生の構造的特徴と優占した植物種に基づいて5つの植生タイプに分類した(Fig.1).タイプ1:背の高い植物(ススキ
Miscanthus sinensis, ヨシ
Phragmites communis, オオイタドリ
Polygonum sachalinense)のバッチが低いイネ科草本(ナガハグサ
Poa pratensis, オオアワガエリ
Pheleum pratense)と混ざり合った植生,タイプ2:背の高い植物(セイタカアワダチソウ
Solidago altissima, メマツヨイグサ
Oenothera biennis, オオヨモギ
Artemisia montana)が低いイネ科草本(ナガハグサ,オオアワガエリ)のなかに一様に点在している植生,タイプ3:ヤナギ科 Salicaceae の低木林.4:低いオオアワガエリ,5:高い植物(セイタカアワダチソウ,オオヨモギ,ススキ,ヨシ)が密生,巣を発見し,巣のあった区画の植生タイプを決定した.調査地にいた6つがい(A~F)と1羽のつがいになっていない雄について1回目繁殖の抱卵期に各雄を2時間追跡し,とまった場所を地図上にプロットし,行動圏に含まれる植生タイプを明らかにした.ノビキタによって頻繁に利用される植生タイプを調べるため,各繁殖ステージにおいて4:00から20:00まで2つがい(A,B)と1つがい(C)の雄の位置を1分ごとに地図上に記録し,さえずり回数を数えた.さえずり活動とその他の活動は分けて分析された.行動圏とソングエリアは最外郭を結んだ線で囲まれた区画と線上の区画を合わせたものとした.
巣があった区画はタイプ1が最も多く69.2%(13巣中9巣)を占めた.7つの行動圏ではどれもタイプ1あるいは2が主要な植生であった(Figs.2,3).雄3羽の行動圏サイズは繁殖ステージとともに変化したが,行動圏内の植生タイプ構成比に変化はなかった(Fig.4).ソングエリア内の植生タイプの構成比は行動圏内の植生タイプの構成比と類似し,繁殖ステージにともない変化しなかった(Fig.4).
雄のさえずり以外の活動のタイプ1における活動密度は,雄A,B,Cについてすべての時期で期待値(=行動圏内の1区画あたりの平均観察回数)と有意に異なった(Fig.5).雄Bは巣立ち期にタイプ1よりタイプ2と5を頻繁に利用した(Fig.5).雄Cは抱卵期にタイプ2と3を,巣立ち期にタイプ2をそれぞれ期待値より高く利用した(Fig.5).
さえずり活動では,雄A,B,Cは,雄Cの巣立ち期を除いてすべての時期で期待値よりも頻繁にタイプ1を利用した(Fig.6).雄Aは抱卵期にタイプ1よりもタイプ3においてより活発にさえずった(Fig.6).雄Cは抱卵期にタイプ1,2,3を,巣立ち期にタイプ2を期待値より多く利用した(Fig.6).
雌A,Bはすべての時期においてタイプ1を期待値よりも頻繁に利用した(Fig.7).雌Bは抱卵期と巣立ち期にタイプ3,4,5よりもタイプ2を頻繁に利用した(Fig.7).
本研究におけるハビタットの特徴は散在したとまり場という点において,他の地域のハビタットの特徴と類似した.活動における行動圏内の各植生タイプの利用を見ると,唯一タイブ4がどの個体によってもほとんど利用されなかった.タイプ4と他のタイプとの違いはとまり場の有無である.ノビタキは採餌やさえずりにとまり場を利用するので,タイプ4の利用が低いのはとまり場の不足によるものであろう.すべての個体がタイプ1と2をどの時期もよく利用した理由は彼らの採餌方法と関係があるかもしれない.彼らの採餌方法(とまり場から地面への飛び降り)はとまり場間の近い植生空間を必要とする.それ故,タイプ1と2は行動圏としてより好まれたのかもしれない.本研究の結果は,ハビタットとして好まれた散在したとまり場のある植生以外にも,林や高茎植物が密生した植物でもノビタキが活動することを示した.
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