ホタルに代表される発光性甲虫は、ホタルルシフェリン(基質)のルシフェラーゼ(酵素)による酸化反応を用いて発光する1)。ホタルルシフェリンは天然有機化合物には珍しいベンゾチアゾール環を有する化合物である2), 3), 4)。その生合成には興味がもたれるが、ヒドロキノンとシステインから生合成されること以外、化学構造の決定から50年以上が経過した現在でもその詳細は明らかでない5)。
ごく最近われわれは、化学合成試薬や酵素を用いることなく、中性バッファー中、ヒドロキノンの酸化体であるp-ベンゾキノンとシステインを1:1のモル比で混合し、30 ℃、3時間撹拌するだけでホタルルシフェリンが自発的に生成するという現象(ホタルルシフェリンの非酵素的ワンポット生成)を発見した(図1)6)。ホタルルシフェリンの生成は1H NMR, MS, 吸収スペクトル解析により確認した(図2, 3)。今回発見した現象は単純で温和な条件下で起きることから、そのメカニズムを知ることがホタルルシフェリン生合成研究の進展の糸口になる可能性があると考え、以下そのメカニズムの解明に挑んだ。
1. ホタルルシフェリンの非酵素的ワンポット生成の最適条件の検討
① 溶媒の効果
様々な溶媒中、p-ベンゾキノンとL-システインを1:1のモル比で混合し、30 ℃、3時間撹拌した後、ホタルルシフェリンの生成量をHPLC分析により算出した。pH 6.0からpH 7.5の中性バッファー中ではバッファーの種類に関係なくホタルルシフェリンが収率0.13%から0.45%で生成した(図4)。一方、その他の溶媒中ではホタルルシフェリンは収率0.003%未満でしか生成しない、もしくは検出されなかった(図4)。この結果は、ホタルルシフェリンのワンポット生成には反応溶媒として中性のバッファーが必要であることを示している。
② p-ベンゾキノンとシステインの混合モル比の効果
中性バッファー中、p-ベンゾキノンとL-システインを1:5, 1:2, 1:1, 2:1, 5:1の各モル比で混合し、30 ℃、3時間撹拌した後、ホタルルシフェリンの生成量をHPLC分析により算出した。L-システインがp-ベンゾキノンに対して過剰もしくは等量の条件(1:5, 1:2, 1:1)では収率0.15%から0.37%でホタルルシフェリンが生成した。一方、p-ベンゾキノンが過剰の条件(2:1, 5:1)ではホタルルシフェリンは検出さ
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