目と手と耳を使った理学的所見はたとえバスキュラーアクセス (VA) の観察であろうとも診療の基本である. 本邦においてはVAの理学的所見に関する系統的記載は少なく, しかも聴診所見に偏っている傾向が否めない. 今回, 動静脈瘻 (AVF) 狭窄の理学的所見の意義を検討した. 1996年7月より2004年12月までのI群 (102例のAVF) では聴診所見を中心にVAを観察し, その所見をretrospectiveに検討した. 2005年1月より同年12月までの1年間に観察したII群 (31例のAVF) は, 聴診に加え視診と触診の理学的所見を重視し, その所見をprospectiveに検討した. シャント造影で狭窄率が60%以上を呈した例を検討対象とした. さらに理学的所見により狭窄部位を早期かつ正確に診断するため各群を1型 (傍吻合部型), 2型 (遠位型), 3型 (1, 2型の混合型) の3型に分類した. I群ではII群にくらべ穿刺困難, 閉塞を含む血流不全など比較的重篤な所見の頻度が多かった. しかも聴診所見を主に観察したI群では1, 2, 3型の理学的所見の頻度に大きな差はなく, 各型の識別は困難であった. 一方, II群の1型ではfirst
thrill
減弱が, 2型では吻合部と狭窄部の間の静脈怒張と狭窄部のsecond
thrill
の出現頻度が高かった. しかし3型ではsecond
thrill
は多くみられたが, 2型にくらべ静脈怒張の頻度は少なく, むしろfirst
thrill
減弱と血流不全が比較的多くみられた. 聴診所見は重要ではあるが, その所見を経時的にまた客観的に記載することは必ずしも容易ではない. 視診, 触診を含めた理学的所見を総合的に観察することにより, 狭窄部位の推定も含めVAの血流異常を正確かつ早期に診断することが可能となり, percutaneous transluminal angioplastyなどによるVAの改善が容易になると思われる.
抄録全体を表示