抄録
この一連の研究では, 食糧生産のための有効な水資源利用の観点から水利用効率の高い作物生産を目的とし, 与えられた気象条件下で水田の水利用効率を高くするイネの葉面積密度を検討する. 本報では, 作物生育, 群落内の微気象, 気孔コンダクタンス, および個葉の光合成速度を水田で観測し, 多層モデル (Oue, 2001) への組み込みを考慮したイネの気孔コンダクタンス (gs) モデルと個葉光合成 (CERl) モデルを構築した. gsとCERlに影響を及ぼす要因を検討し, gsモデルのパラメータとして個葉に入射する光合成有効放射 (PARl) 以外に葉齡や葉位と関連する高度およびその高度におけるVPDが有効であり, CERlモデルのパラメータとしてPARlとgsが有効であることがわかった. 高度とVPDはgsに対して互いに逆の影響を及ぼすので, 本研究で適用したモデル化は非常に有効であると考えられる. このgsモデルは, 群落内の高度とその高度における気象条件によってgsを推定するので, 多層モデルに組み込むのに適している. また, このCERlモデルはgsモデルで推定されたgs値をパラメータとするので, 光合成のプロセスと水利用効率を一貫して表現するのに適している.