野生鳥獣による農林業被害は依然深刻である。被害は地域資源の利用低下と村落の空間荒廃のもとで生じており、被害対策にはこれらの克服が求められる。本学会では過去に〈むらの文化〉という視点からこの課題へのアプローチがなされている(年報第46集『鳥獣被害―〈むらの文化〉からのアプローチ』2010年)。他方で上記の趨勢を覆すのは難しく、一定程度受け容れざるを得ない面がある。村落研究はこの現状にどう向き合い、どのような議論を展開していけばよいだろうか。
このような問題関心のもと、「村落の『空間荒廃』と資源管理を考える―獣害対策の観点から―」と題した研究会を開催した。本特集記事はその記録である。
研究会では、獣害の克服と受容という対照的な議論の流れを踏まえて次の2つの目的を設定し、報告と議論を行った。第1に、獣害の克服と受容という視点が、それぞれどのような現状把握と問題意識に基づいているかを明らかにすることである。第2に、こうした一見対照的な視点の間に接点を見出し、二者択一にとどまらない議論の可能性を探ることである。
研究会は2023年12月23日、跡見学園女子大学(文京キャンパス)においてハイブリッド形式で開催し、対面とオンラインを合わせて25名が参加した。コーディネーターからの趣旨説明後、「獣害対策と資源利用」(弘重穣氏)、「『山のもんに負けた』生活感覚から村が滅ぶ文化的な意味を問う」(閻美芳会員)の2報告が行われた。報告に対する竹本太郎会員からのコメントと報告者の応答の後、フロアを交えて質疑応答と活発な議論が行われた。これらを通じ、獣害の克服/受容という当初の枠組とは異なる対立軸や今後の研究課題が、おぼろげながら浮かび上がってきたように思う。
本特集記事は、企画趣旨、研究会における2つの報告の要旨とコメント、質疑記録と論点から構成されている。企画趣旨は研究会当日の議論を踏まえ、後日加筆修正を施している。また、報告要旨はあえて短い紹介にとどめた。詳細な内容は別途公表されることを期待している。
最後に、年の瀬の迫る時期にもかかわらず研究会にご参加くださった方々と、貴重な機会を提供くださり、研究会開催にご尽力くださった編集委員各位に、厚く御礼申し上げる。
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