2023 年 44 巻 p. 113-124
著者は以前に美術教育実践の贈与交換・相互交感・純粋贈与の三層構成を指摘し,また,前稿では表層・深層・無意識という三層構造を検討した。本稿はこの二つの三層の対応可能性, 特に純粋贈与と無意識との関連を検討した。純粋贈与は形式的贈与交換の下で見えにくい形で存在することを指摘した。次いで矢野智司の言う「発達としての教育」と「生成の教育」の二概念のうち,後者が純粋贈与に当たること,中沢新一の言う贈与・純粋贈与が著者の三層に対応することを確認した。また,山本正男の無に関心づけられた美的体験論と,吉本隆明の沈黙からの自己表出という芸術言語論を踏まえて,純粋贈与・美的体験・自己表出の相同性を確認した。最後に坂本小九郎の版画教育実践が贈与交換論的意識に満ちていたことを坂本の著書から証明した。