【目的】食品の内部構造は, 食感等の品質を支配する重要な因子である. 演者らはこれまでに, 麺等の食品を透明にするSoROCS溶液を開発し, 透明化した試料を蛍光計測することで, 食品の内部構造を三次元的に計測可能にした. SoROCS溶液は, 食品試料の高い透明度を実現するが,試料の超深部では,蛍光計測時に光の散乱の影響により,試料の表面に比べて得られる画像が不鮮明化する.近年では,画像の鮮明化に際して,鮮明な画像と不鮮明な画像をセットにした教師データで事前に学習させた人工知能(AI)の活用が多くみられる.しかし,試料超深部での鮮明な画像の取得は不可能であり,実測した画像で教師データを作成できないという課題がある.そこで,画像の鮮明度を高精度に評価できる指標を開発することで,試料の表面付近で得られる鮮明な画像を基に,深度に応じた不鮮明さを有する画像を作成するという逆転の発想により,教師データを作成することを考案した.本研究では,透明化手法とAIを組み合わせることで,鮮明な三次元超深部計測を実現することを目的とした.【方法】麺をSoROCS溶液で透明化し, 汎用的な蛍光顕微鏡を用い,麺表面から深部に向けて,蛍光標識した麺内部のグルテンを三次元的に計測した.【結果】まず,深部の画像ほど,ヒストグラムの形状が線対称に近づくことに着目し,画像の鮮明度を高精度に評価する指標を考案した.次に,本指標の値と深度の関係性を調べ,試料内での光の散乱と顕微鏡の光学特性に基づき,表面付近で得られた鮮明な画像から,深度に応じた鮮明度を有する画像を作成し,教師データとした.エンコーダーとデコーダーから成り,スキップ接続でチャネル方向に接続したAIを構築し,深度ごとに,教師データから作成した約6万枚のパッチ画像を学習させた.三次元的に計測した画像に本AIを適用したところ,超深部の鮮明度を最大9.85倍改善できた.