日本食品科学工学会大会講演要旨集
Online ISSN : 2759-3843
第72回 (2025)
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シンポジウムA3: 発酵醸造文化の未来 ― 伝統的酒造りのユネスコ無形文化遺産登録と次世代への継承
焼酎造りを支える白麹菌の特徴とその遺伝的背景
*二神 泰基
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キーワード: 焼酎, 蒸留酒, 白麹菌, クエン酸
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p. 17-

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抄録

【講演者の紹介】

二神 泰基(ふたがみ たいき): 2003年九州大学農学部卒,2008年九州大学大学院生物資源環境科学府博士課程修了,同年 海洋研究開発機構 博士研究員,2009年九州大学大学院農学研究院 寄附講座教員.その後,2014年より鹿児島大学農学部附属焼酎・発酵学教育研究センター 准教授.現在に至る.

 焼酎は,米,大麦,蕎麦,芋,黒糖といったさまざまな原料を用いて製造される伝統的蒸留酒である.焼酎の文化は微生物の増殖しやすい温暖な九州地方で発展してきたことから,腐造を防ぐための工夫がなされてきた.そのひとつは麹菌の種類である.麹菌の役割は,アミラーゼ等の酵素を生産して原料に含まれるデンプンを酵母が資化できるグルコースに分解することだが,焼酎造りに使用される黒麹菌(Aspergillus luchuensis)とその白色変異体である白麹菌(Aspergillus luchuensis mut. kawachii)はクエン酸を高分泌生産する性質も有している.クエン酸は醪のpHを下げて雑菌増殖を防ぐため,安定した焼酎製造が可能になる.私たちの研究グループは,このクエン産高生産能をはじめとする白麹菌に特徴的な性質について解析を行ってきた.以下に,いくつかの研究トピックスを紹介する.

・白麹菌が白色化した原因:白麹菌と黒麹菌の比較ゲノム解析により,白麹菌が白色化した原因遺伝子が判明した.白麹菌のIFO(NBRC)4308株では,黒色色素であるメラニンの合成に関わるpksP遺伝子に1塩基欠損により終止コドンが生じる変異が見つかった.また,それを修復することで白麹菌が黒色に戻ることが実証された.メラニン色素は紫外線などにより生じる酸化的ストレスへの耐性に関わっており,黒色化した白麹菌は紫外線や過酸化水素などへの耐性が向上した.

・白麹菌がクエン酸を高生産できる理由:麹菌のクエン酸生産能に,クエン酸排出輸送体の発現レベルが重要であることが明らかになった.白麹菌においてクエン酸排出輸送体をコードするcexA遺伝子を破壊するとクエン酸生産がわずか数%にまで低下し,その一方で,cexA遺伝子を過剰発現させるとさらにクエン酸生産量が増えた.また,黄麹菌(Aspergillus oryzae)に白麹菌に由来するcexA遺伝子を導入し,α-アミラーゼ遺伝子のプロモーターにより強制的に高発現させると,白麹菌と同程度のクエン酸生産能を獲得した.

・白麹菌のα-アミラーゼ:白麹菌はクエン酸を高分泌することで周囲のpHを低下させる.そのため,非耐酸性のα-アミラーゼ(AmyA)に加えて,耐酸性のα-アミラーゼ(AsaA)も生産することが知られている.白麹菌 IFO 4308株のゲノム解析の結果,AmyAとAsaAの他にも,α-アミラーゼ(AmyB)をコードすると推定される遺伝子が存在することが明らかになった.AmyAとAsaAは分泌型酵素だが,このAmyBはGPIアンカー型の膜タンパク質である可能性が示唆された.

・白麹菌のβ-キシロシダーゼ:白麹菌IFO 4308株と黒麹菌RIB2604株の比較ゲノム解析により,白麹菌 IFO 4308株ではβ-キシロシダーゼ(XylA)をコードする遺伝子に変異があり,機能していないことが明らかになった.β-キシロシダーゼはキシロオリゴ糖を分解してキシロースを生成する酵素である.また,焼酎製造ではキシロースは香気成分であるフルフラールの前駆物質として重要である.解析の結果,白麹菌IFO 4308株ではxylA遺伝子が機能しないため,醪中のキシロース濃度が低下することが明らかになった。

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